静岡リニア、県が黙認する東電「ダム取水」の謎 ダムから大井川の放流増量で解決するはずだが
1975年12月の水利権更新に当たり、当時の山本敬三郎知事は「4.99立方メートルのうち、2立方メートルを大井川に返してほしい」と要求したが、東電は「水利権は半永久的な既得権」とはねつけた。
その後も「水返せ」運動は続き、静岡県は東電と粘り強く交渉、2005年12月、ようやく、0.43~1.49立方メートル(季節変動の数値)の放流を勝ち取った。
それでも山本知事の要求にはほど遠く、このため、それまで30年間だった水利権更新期限を10年間に短縮、次の更新時期となる2015年冬に向け交渉の余地を広げた。
川勝知事は2014年春にリニア工事による“命の水”のために立ち上がった。当然のことながら、2015年冬の交渉で山梨県に流れる“命の水”の返還についても期待が高まった。
ところが、県は東電の取水を黙認し、放流条件はそのままで更新された。現在、県内において水不足が常態化している要因のひとつが、田代ダムから山梨県側への流出であることは言うまでもない。
静岡県専門部会の役割は水問題の解決を探るのではなく、JR東海が提起する対策について議論することに尽きる。このため、委員や染谷市長の解決に向けた提案は封印された。
実際問題として、トンネル工事期間中、JR東海が東電に金銭的な代償を支払い、田代ダムから大井川への放流を増量すれば、今回の水問題は解決する。知事が声を大にして、“命の水”を取り戻すと東京電力とJR東海の両者に強く働き掛ければ、同じ大井川の水なのだから、現実的な解決策となり、流域県民の生命は守られる。
生物多様性にも「ダム問題」が影を落とす
一方、知事は「南アルプス」保全も宣言している。その議論の場である生物多様性専門部会では、在来種で絶滅危惧種「ヤマトイワナ」を守ることが最優先の課題だ。
静岡県水産・海洋技術研究所は、ヤマトイワナの減少理由について、渓流釣り人気による減少に伴い、県内に生息していなかった繁殖力の強いニッコウイワナを地元漁協が放流したからと説明する。さらにヤマトイワナとニッコウイワナの混雑種誕生で、ヤマトイワナは減少の一途をたどった。
生存競争の中で、環境に最も適した種が他を駆逐するのは「適者生存」の法則であり、JR東海の環境影響調査で、ヤマトイワナを発見できなかった理由のひとつでもある。
また、ヤマトイワナ減少の根本的な理由は、“命の水”同様に発電所ダムの影響である。
1995年、中部電力は大井川で最も新しい二軒小屋発電所を設置した。発電所から約7km離れた西俣川の堰堤(高さ15m以下のダムを堰堤と呼ぶ)と約10km離れた東俣川(大井川の西俣川合流地点から上流の呼び名)の堰堤から取水、2つの堰堤から導水管で発電所まで水を送っている。
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