ねじれの効果、議会制民主主義の効用、測りたい民主党の政権担当能力

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ねじれの効果、議会制民主主義の効用、測りたい民主党の政権担当能力

政府は日銀総裁問題で今日(7日)、人事案を提示するが、「政争の具」とする政治への反発が高まり、19日の任期満了以降の総裁空席に警鐘を鳴らす論調が多くなった。

一方、民主党などの国会欠席戦術にも批判が強くなっている。確かに総裁空席となれば、日銀の機能不全が内外に深刻な影響を及ぼす危険性がある。国会審議の遅れで予算関連法案が成立しない場合、国民生活に混乱や被害が生じる恐れもある。
 だが、そこを強調しすぎるのはどうかと思う。現在の事態は、いうまでもなく「衆参ねじれ」が原因だが、ねじれがなければ、日銀総裁は政府と与党の調整だけで決まったはずだ。今回、総裁の役割、適格条件、選び方、財政と金融の分離など、本質的な問題が広く議論を呼んでいるのは、ねじれの効果、もっといえば議会制民主主義の効用である。

予算審議の焦点の道路特定財源と暫定税率の問題も同じだ。こちらも以前は政府と与党の協議で決まり、国民は制度のあり方や道路建設計画、税率の是非、税金の使い道などに関心を持つ機会すらなかった。
 民主党の肩を持つ気はないが、日銀総裁にしろ国会審議にしろ、「政争の具」という言い方で遅れを攻撃するのは、衆参与党支配時代の「迅速で効率的な政治」がベストという発想が消えないからだろう。民主主義は時間がかかるのが難点だが、ここは急がずに国民は問題の本質を見極め、世論の力で政治を動かす形に持ち込むべきだ。

とはいえ、政争は水際までである。議論も駆け引きも、総裁問題は19日まで、予算関連法案は年度末までの話だ。最後は国民生活や国益を考えて幕を引く覚悟がなければならない。とくに民主党は党内調整も含めて、力量が試される。国民は政権担当能力を測るチャンスと見ている。

塩田潮

塩田潮(しおた・うしお)

ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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