菅首相、「学術会議」任命拒否に込めた権謀術数 理由はあいまいな説明に終始、かみ合わぬ議論

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菅首相は2021年9月の自民党総裁選で再選を果たし、4年間の本格政権を目指す構えだが、「今回の問題は、再選へ最大のカギとなる次期衆院選への悪影響が避けられない」(同)との指摘も相次ぐ。その一方で、政界では「首相があえて支持率低下を狙った”焦土作戦”では」(首相経験者)とのうがった見方も浮上する。

世論も賛否が分かれ、いわゆる「ネット右翼」と呼ばれるグループからは学術会議批判も噴き出している。同会議は2017年、軍事的研究には関与しないという発足以来の立場を改めて表明したことについて、「日本を取り巻く安全保障環境の変化を無視している」(防衛相経験者)という声もあがり、首相批判一辺倒ではない。

解散ムードの高まりに懸念

こうした状況から「支持率が多少下がっても、保守層の支持固めを優先した」(自民若手)と指摘もある。さらに「政権発足時の予想を超える高支持率に一番プレッシャーを受けているのは菅首相で、いたずらに自民党内で解散ムードが高まることへの懸念から、あえて支持率低下につなげる戦略に出た」(閣僚経験者)と解説する向きもある。

たしかに、歴代3位とされる内閣支持率に伴い、自民党の支持率は上昇した。「今、選挙をやれば大勝確実」(自民若手)との声も広がる。しかし、選挙情勢を分析する専門家は「いくら支持率が高くても、それに危機感を強めた主要野党が全国での統一候補擁立に踏み切れば、自民の議席減は確実」と指摘する。

だからこそ、「菅首相は年明け解散も含めて早期解散は見送り、事実上の任期満了選挙を見据えていったん支持率を低下させ、携帯料金値下げなどの実績を積み上げることで、改めて国民の支持を得て、選挙勝利で再選につなげるのが狙い」(自民長老)との見方も出る。

ただ、ここにきて自民党内では菅首相と蜜月関係の二階俊博幹事長の強引な党運営への批判も渦巻く。岸田文雄前政調会長が麻生派などとの「大宏池会構想」を打ち出したのも、「反菅・二階勢力総結集による菅降ろしの動き」(細田派幹部)との声が広がる。

党・内閣の運営や衆院選での公認や資金をこのまま「菅・二階連合」に支配されれば、細田、麻生、竹下の3大派閥の不満爆発は必至だ。今回の事態が焦土作戦だったとしても、菅首相自らが政権動揺を招く導火線に火をつける結果となる可能性は否定できず、今後も自民党内の実力者による神経戦が続くことになりそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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