北朝鮮が「マンション崩壊」を報じた裏事情 なぜ隠ぺいせずに報道したのか

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謝罪の内容は、あまりにも率直だ。崔部長は、「今回の事故の責任はわが党の人民愛の政治をきちんと受け止めることができなかった自分にある」と述べたうえで、「人民の生命・財産に危険となる要素をきちんと取り除き、徹底した対策を立てられず、想像もできないほどの事故が発生したことを反省している」と述べている。

さらに、「今後は人民大衆を第一に考える党の崇高な意図を受け止め、人民保安部がいつでも人民の利益と生命財産を徹底して保護する本当の人民のための保安機関になるためにすべてを捧げる」とまで述べたとしている。報道ぶりをみると、崔部長だけでなく関係幹部たちの謝罪と反省の言葉がずらりと並んでいる。

「朝鮮速度」をアピールか

今回の報道について、4月中旬に発生した韓国でのフェリー沈没事故によって、その責任をめぐって朴槿恵政権への批判が強まっていることに対する「当てつけ」だという見方が支配的だ。危機管理能力は南側よりあるとアピールするため、という理由からだ。

ただ、「韓国への当てつけは二の次ではないか」と北朝鮮問題の専門家で、韓国・国民大学の鄭昌鉉教授は指摘する。「異例な報道を行ったのは、一つは事故現場が平壌市内中心部であり、これほどの大事件が起き、死傷者数も多いとされている。そのため、党や政府は情報統制が不可能だと考えたのだろう」。

また、これまでにはなかった事故報道は、金正恩時代になって少しずつ行われてきた「世論を意識した大衆的な行動と関係があるのではないか」と鄭教授は説明する。この指摘からは、2012年4月に、海外メディアを集めたにもかかわらずロケット発射に成功しなかった事件も思い浮かぶ。それまでの北朝鮮ならこのような失敗は報道しないものだったが、目の前での失敗は統制できないことは当然であることに加え、当局が「失敗は失敗で認めればいい」との金正恩第一書記の指示があると説明したこともある。

今年5月1日のメーデーに合わせて『労働新聞』で打ち出された、新たな国家的スローガンに「朝鮮速度」というものがある。これは、与えられた時間内に最大限の量的・質的な成果をつくりあげようという意味を持ち、このスローガンも、今回の対応につながっていると、鄭教授は指摘する。「今回の事件に対する批判の矢が、『朝鮮速度』をアピールしてきた最高指導部に向かわないようにする効果もあった」。異例の対応には、最高指導者が「朝鮮速度」で速やかに対処していることを強調する意味もあるようだ。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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