集団的自衛権の行使、「解釈改憲」では禍根

海外メディアも憲法9条との矛盾を指摘

1959(昭和34)年の砂川事件をめぐる最高裁判決、いわゆる砂川判決で、自衛隊は「合憲」のお墨付きを得たのは事実だ。しかし、外国人が憲法を英語で素直に、文字通りに読んだ場合、war potentialという言葉が、日本語で訳された「戦力」よりも幅広い意味を持ち、海外勢が日本国憲法と日本の実態にかなりの矛盾を感じ取っていることを認識しておいた方がいい。米ニューヨークタイムズ紙も5月8日付の社説で、安倍政権が集団的自衛権の行使容認を憲法9条の解釈変更で実現しようとしていることに異を唱え、「日本は民主主義の真の試練に直面している」と指摘した。

日本政府は、憲法9条第2項が禁じている「戦力」とは、「自衛のための必要最小限度を越えるもの」との政府統一見解を示してきた。そして、「自衛のための最小限度」や「専守防衛」に合致させるために、政府は「攻撃的兵器は持たない」との原則を確立。このため、かつては空中給油機の導入が長年認められなかったり、戦闘機から爆撃照準装置が外されたり、といった事態に陥った。「そもそも『攻撃型兵器』などというものは存在しない。攻撃型兵器が駄目なのであれば小銃だって駄目でしょうし、護衛艦だって駄目でしょう。世界の常識とのズレを勘案しないと、外国にはまったく通じない話になる」(軍事ジャーナリストの清谷信一氏)との批判は今も根強い。

安倍政権は「必要最小限度の武力の行使」であれば問題ないと訴え、憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使の容認に踏み切ろうとしている。安倍首相は15日の記者会見で、「積極的平和主義」の旗を掲げ、国連平和維持活動(PKO)など国際協力活動を積極的に推進する際、国際協調が大切であるとの考えを示した。そうであるならば、国際理解を得るうえでも、融通無碍(ゆうずうむげ)な憲法解釈によってではなく、正々堂々と真っ正面から、憲法9条の改正で臨むべきではないのか。

憲法前文と13条で9条を「上書き保存」

安保法制懇の報告書は、憲法9条以外の記述によって、集団的自衛権の行使は容認できる、と結論付けている。すなわち、憲法の前文に書かれた「平和的生存権」や、13条に記された「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を根拠にして、個別自衛権に加えて、これまで9条が武力行使にあたるとして禁じてきた集団的自衛権の行使も可能だとしているわけだ。

しかし、これはいかにも無理がある。13条の「生命、自由及び幸福追求の権利」は、もともと米国の独立宣言(1776年)の有名な一節からGHQが持ってきて、マッカーサー草案に盛り込んだものだ。

“We hold these truths to be self-evident: That all men are created equal; that they are endowed by their Creator with certain unalienable Rights; that among these are life, liberty and the pursuit of happiness.”
われわれは、以下の事実を自明のことと信じる。すなわち、すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているということを。

米国の独立宣言において法の下における個人の平等や人間としての不可侵の権利を掲げた有名な箇所が、日本ではいつの間にか国家安全保障での個別自衛権の根拠の一部に用いられてきた。そして、安倍政権はそれをさらに拡大解釈し、集団的自衛権の根拠の一部にさえもしようとしている。パソコンでの文書作成に例えるならば、憲法前文と13条で9条を「上書き保存」し、消し去ってしまうようなものだ。

振り返れば、戦前の帝国日本では明治憲法の下、天皇が持つ軍の最高指揮権である統帥権について、軍が拡大解釈して政治への介入を強化、戦線を拡大させていった。現在の日本ではシビリアンコントロールが十分に確立されてはいるものの、一内閣の裁量で憲法の解釈を変更し、政府の権力を大きく拡大することに対し不安を感じる国民は多いはずだ。この国に、リーガルマインド(適切な法的判断)はないのだろうか。今、法治国家の根幹部分が揺らいでいるのである。

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