アマゾンのしたたかな「アレクサ普及戦略」 ついに日本で発売「Echo Auto」の実力を試した

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Alexaというキーフレーズを検出し、音声をスマートフォンに中継することで動作するというシンプルな仕組みだが、シンプルであるがゆえに対応しやすい。同様の機能は自動車メーカーにも提供を始めており、Echo Autoを装着することなくAlexaを呼び出せる車は増えていくはずだ。

キーフレーズの検出と質の高いマイク、Bluetoothによる通信機能があれば処理能力は必要としないため、今後、他社製品を含めさらにAlexa対応製品が広がっていくと予想される。一方でAmazon HOMEブランドの照明器具やリモコンなど、eHomeを実現する製品も増加を続けている。そのいずれもリーズナブルだ。

またスマホのプラットフォームに依存しない点も安心だ。3500以上のスキルが用意されているのは、音声サービスが開始される場合の第一選択肢となっているためだ。

アップルならSiri、グーグルならGoogle AssistantがスマホのOSと密に統合されているが、それぞれのよさを車の中で生かすにはCarPlay、Android Autoへの対応が不可欠。アマゾンはもっとハードルの低いところから、車内に自らの領域を広げようとしている。

よりシンプルに、ボトムアップでの浸透を図るアマゾン

アマゾンの戦略には派手さはない。しかし彼らのやり方はシンプルで、追加のコストも最小限で済み、手元にあるスマートフォンを最大限に生かせる。

日本でEcho Autoが発売された2日後の10月2日、アマゾンはアメリカでAlexaアプリが運転者向けにカスタマイズされたユーザーインターフェイスを備えるようになるとアナウンスした

Echo Autoを取り付け、さらに手持ちのスマートフォンをディスプレーとしてコンソールに取り付けておけば、ドライバーフレンドリーな画面でAlexaアプリを利用可能になる(もちろん、ほとんどは音声だけで操作できるが)。

実にアマゾンらしいのは、あくまで”オートモード(自動車モード)”であって、機能を無駄に増やさないこと。カーナビ機能へのアクセスは可能だが、カーナビ機能をアプリに内蔵するのではなく、カーナビアプリを呼び出すだけ、という単純な手法でナビゲーションを利用する。

Alexaを呼び出してガソリンスタンドを検索し、行きたい場所を指定すると連携するナビゲーションアプリを呼び出してナビゲーション。音声でAlexaに「Alexaアプリに戻って」と言えばAlexaの画面に戻る。

ほかにも、車に乗ったら行いたいことをルーティンでこなす機能も用意されている。スケジュールや天気、渋滞情報、ニュースなどをチェックしたうえで、音楽やオーディオブックを再生するといったことを、Alexaとの会話で決めていける。

アメリカではエクソンモービルと提携し、系列のガソリンスタンドでポンプ番号を指定。アレクサにガソリン代を支払うよう指示すると、指定ポンプが解除されてセルフでの給油が行える。

これらはEcho Autoがあれば、より便利に確実な音声認識が行え、ハンズフリーでのAlexa呼び出しが可能になるものの、その機能のほとんどはスマートフォンが提供しており、カーナビゲーションでさえ外部アプリに任せている。

シンプルなだけにマルチプラットフォームに対応しやすく、誰でも使いこなせる。ボトムアップでの浸透を図るアマゾンの手法は、なかなかしたたかだ。

なおオートモードは現時点で英語圏のみにしか展開していないが、アマゾンは時期こそ明確にしていないものの「つねに国際化は最優先のテーマ」と話している。そう遠くないうちに、日本でも利用が可能になりそうだ。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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