「チーズタッカルビ」ブーム作った男の凄い商才 大事なのは「多少の浮き沈み」は気にしないこと

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このタッカルビを、日本ではやらせることはできないか。そう考えた金さんは、韓国のタッカルビ屋で使われている大きな鉄板を店頭にしつらえ、そこで実演しながら調理することを思いついた。ダイナミックな料理の様子と、食欲をそそるコチュジャンの香り。そして、チーズをふんだんにトッピングして提供したのだ。

「日本は韓国よりもチーズが安く、たっぷり使えます。韓国でもタッカルビにチーズを入れる家庭はありますが、新大久保ではさらにたくさん入れてみたんです」

チーズのクリーム色と、コチュジャンの赤。鮮やかな取り合わせは目を引いた。見て楽しめるタッカルビだった。それはこの時代ちょうど爆発的に普及したインスタグラムというツールにマッチしたのだ。

「新しいものを売るときは、『なにを売るか』も大事ですが、『どうやって売るか』がより大切です」と力説する金さんによって、新大久保でチーズタッカルビは大流行となった。

「市場タッカルビ」は大人気店となり、周囲の店も次々とチーズタッカルビをメニューに取り入れ、やがて全国的なブームになっていく。2017年は新語・流行語大賞に「インスタ映え」、JC・JK流行語大賞(モノ部門)に「チーズタッカルビ」が選ばれるという結果となった。その立役者のひとりが、実は金さんなのであった。

新大久保を生き抜くコツ

そしていまは「アリランホットドック」に転職し、多店舗展開を担当している。「新しいことにチャレンジできそう、という店を渡り歩いてきました」と言うが、このハットグの一大ブームで少し問題になっていることもある。

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コリアンタウンでは客単価が減っている店が出てきているのだという。ハットグはでっかい。そして濃ゆい。女の子だったらひとつでお腹いっぱいになってしまうのだ。だからあちこち食べ歩くことが減っているのでは、と金さんたちは考えている。それにヨンさまの頃は、新大久保にやってくるのは中高年の女性が中心だったが、いまは中高生が多い。使えるお金も違う。

それでも、「サムギョプサル(豚バラの焼き肉)から始まり、チーズタッカルビ、ハットグ、UFOチキンなどいろんなものがはやっては廃れてきました。本当に移り変わりの激しい街で、そのたびに経営の波はありますが、そのうちまた違うものがブームになると思います。多少の浮き沈みはあまり気にしないようにしています」

それが観光地としての新大久保を生き抜くコツなのだろう。

室橋 裕和 ライター

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むろはし ひろかず / Hirokazu Murohashi

1974年生まれ。週刊誌記者を経てタイに移住。現地発の日本語情報誌に在籍し、10年に渡りタイ及び周辺国を取材する。帰国後はアジア専門のライター、編集者として活動。「アジアに生きる日本人」「日本に生きるアジア人」をテーマとしている。主な著書は『ルポ新大久保』(辰巳出版)、『日本の異国』(晶文社)、『おとなの青春旅行』(講談社現代新書)、『バンコクドリーム Gダイアリー編集部青春記』(イーストプレス)、『海外暮らし最強ナビ・アジア編』(辰巳出版)など。

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