「チーズタッカルビ」ブーム作った男の凄い商才 大事なのは「多少の浮き沈み」は気にしないこと

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東日本大震災で潰れていった店もたくさんあるし、帰国した仲間もいる。2013年頃からは、竹島問題に端を発して、ヘイトスピーチの嵐が新大久保にも吹き荒れた。2000年代に盛り上がった韓流は、2010年代前半だいぶ落ち込んでしまうのだが、それでも金さんはこの街にビジネスチャンスの可能性を感じ、働き続けてきた。2017年頃からは、再び韓流の大きなブームが巻き起こり、いまはヨンさまの頃よりお客が多いという声もある。

面白いのは、金さんは「ソウル市場」を皮切りに、新大久保の中でいくつも職場を渡り歩いていることだ。

「新大久保内で転職を繰り返している韓国人、けっこういると思いますよ。スカウトというか、そういう誘いはよくあります。新しい店がオープンするときに、別の店から評判のいいコックを引き抜いたり。ひとりの腕のいいコックが、開店請負のような感じでいろんな店を渡り歩いているとも聞きます。それが新大久保の店の、高いレベルでの味の平均化につながっている、なんて言われてますね」

そうやって実績を積み上げ、この狭いエリアの中で、よりよい待遇の職場に移っていく。新大久保コリアンタウンはそんな社会でもあるのだ。

そして金さんは、2016年に古巣「ソウル市場」に舞い戻る。ミッションは経営状態が悪化していた系列店「市場タッカルビ」の立て直しだ。その目玉として「開発」したものが、チーズタッカルビだった。

金さんのソウルフード「チーズタッカルビ」

「私の出身は春川(チュンチョン)なんですよ。ソウルから電車で1時間くらい。『冬ソナ』のロケ地で有名なところです」

ドラマでは主人公たちが高校時代を過ごした地として登場する春川。「聖地巡礼」の観光客にも知られているが、この街にはもうひとつの名物が昔からあった。タッカルビだ。大きな鉄板の上で、鶏肉と、玉ねぎやじゃがいも、エゴマ、キャベツなどの野菜をがしがし炒め、甘辛いコチュジャンをなじませて食べる郷土料理だ。

「人口28万人の街なんですが、タッカルビの店が360軒くらいあると言われています。母もタッカルビ屋だったんですよ」

シンプルな鉄板焼きである。それだけに、家庭によって、店によって、バリエーションはさまざまだ。肉は骨付きだったり骨なしだったり、追加で麺を入れたり、シメにごはんを投入してチャーハンにしたり。金さんの家では、チーズを焼いてお焦げにして、それで肉や野菜を巻いて食べていたのだそうだ。

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