「正しい医療情報に拘る人」がわかってない本質 時と場合によって「正しさ」は変わってくる
新型コロナ禍によって「医療情報」への社会的関心は高まるばかりだ。医学部出身で医療ジャーナリストとしての顔も持つNHKの市川ディレクターに、医療情報の持つ本質について記してもらった。
「正しいだけの医療情報」は時に逆効果
「正しい医療情報を伝える」ことが、 新型コロナ禍のなかでメディアが果たすべき最大の使命である──この主張に対し、異論を持つ人は少ないかもしれない。しかし、筆者はあえて疑問を投げかける。
「正しい」とはどういうことか? そして、それを伝えることだけを最大の使命としていいのか?
そもそも「正しい医療情報」を伝えていれば、人々の行動は適切に変わりうるのだろうか。2014年、アメリカ・ダートマス大学の研究チームは、ワクチンに対する情報提供と接種意欲の関係について検討した(* Pediatrics. 2014 Apr;133(4):e835-42)。子どもを持つ親1759人をランダムに5群に分け、MMR(三種混合)ワクチンに関してどのような情報を提供すれば、接種への意識が向上するか調べた。
②ワクチンで防げる感染症のデータを示す
③感染症で重症化した子をもつ親の「語り」を聞かせる
④感染症にかかった子どもの写真を見せる
⑤ワクチンとは関係のない情報を聞かせる(対照群)
結果は「すべて効果なし」だった。
さらに驚くべきことに、①のグループは接種意欲が有意に「低下」した。さらに③④については、ワクチンと自閉症の関連を疑う人が増えたり、重大な副作用を心配する人が増えたりしたことがわかった。
なぜか? 研究チームは考察のなかで、人間の心理的な「クセ」を要因として挙げている。すなわち、人は「自分の信条を否定されるデータを示されると、かえってその信条に固執したくなる(Backfire effect)」。そして「恐怖や不安をともなう情報を提示されると、文脈とは関係なく、そのもの自体への忌避感が高まる(Danger-priming effect)」。
この知見をもとに、メディアによる新型コロナの報道について考えてみよう。
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