トヨタにのしかかるリコール決断の代償
2008年から09年に同省リコール検討会座長を務めた畑村洋太郎・工学院大学教授はこう指摘する。「リコールはいけないものをつくったから回収するのではなく、問題に真正面から向き合って解決することで次の製品に生かすもの。海外ではリコールした中古車の方が値段が高い。トヨタはインチキや手抜きをしたのでなく、消費者の思い描く使い勝手からズレていたということだ」。
確かに一連のトヨタの姿勢には、批判されるべき点も少なくない。だが、昨秋から延々続く米国社会の反応は感情的にも映る。後に撤回したが、ラフード米運輸長官による「トヨタ車には乗るな」との失言は、明らかに公正さを欠くものだった。行司役である米当局の怒りを、一メーカーが気遣う構図は適切ではない。
国内においても、リコールの実質的な基準をいったん拡大解釈すれば、いずれ他社にも跳ね返る。むろん安全は必要最低条件だが、自動車という商品が、コストや性能、安全とのバランスで成り立っているのも事実。トヨタ1社が沈むならともかく、これが消費者の車そのものへの不信、ひいては自動車産業全体の疲弊につながるとすれば、いったい誰が得をするのか。
「トヨタにとって励ましの声が広がるよう米国にも出向いていく」。事態を打開するために、豊田社長は自身の訪米も明言した。米下院の公聴会は今月24日に延期されたが、トヨタ幹部らが徹底追及される姿は想像に難くない。自動車業界の冷静な対応が今こそ問われている。
(大野和幸、高橋由里 撮影:風間仁一郎 =週刊東洋経済10年2月20日号)
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