菅首相の原点「秋田・湯沢」に見えた日本の縮図 高齢化の先端、人口減で税収も悪化する地方都市

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住民の多くは経済的な衰退の原因を人口減少、とりわけ低い出生率にあるとみている。

すでに廃坑となった銀山で働いていた人たちを含め、1955年には8万人がこの街で暮らしていた。それが今は半減、昨年高校を卒業した生徒はわずか442人だった。

秋田県の人口1000人当たりの死亡者を見ると、2019年は16.4人と47都道府県で最多。全国全体の11.2人を5人以上上回る。一方、1000人当たりの出生率は4・9人で全国最低だ。

市の職員によると、今年度のふるさと納税の税収は4億円を見込んでいる。苦しい台所事情を大きく変えるには至らないが、わずかな収入でも支えになるという。

商店街に設置されたたばこの自動販売機の脇には、市のたばこ税収は2019年、2億8935万円だったと書かれたビラが貼ってあった。「地元の貴重な財源です。たばこを買いましょう」と呼びかけていた。

2015年、湯沢市は人口減少に歯止めをかけようと、子ども向け医療助成の拡充や子どもを預けるデイケアの強化、奨学金の返済支援など、一連の対策を打ち出した。しかし、高齢化で停滞する街の経済を復活させるのは難しいと、住民は考えている。

「大きなスーパーマーケットでもいいので、みんなが来たいと思えるような施設があれば」と、湯沢市で生まれ育った30代の女性は言う。

「夏イチゴ」の一大産地に

菅氏の実家は、街の中心部から離れた秋ノ宮の集落に今もある。3年前に母親が高齢者施設に入ってからは誰も住んでいない。

この集落は稲作が盛んで、冬になると農家は東京へ出稼ぎに出た。それを変えたのが、菅氏の父親である和三郎氏だった。米作りよりも身入りの良いイチゴの栽培を始め、組合を作り、地元に広めた。

「お父さんが(菅)官房長官に何かを直接指導したということはない。お父さんの思いとか取り組みとか、そばで見ておったですね。自然に官房長官の中に芽生えたのでしょう」と、子どものころからの友人で、市議を務めた由利昌司氏(71歳)は振り返る。

菅氏はイチゴの栽培を手伝い、無口で頑固、夜に何時間も野球の練習をし、希望のポジションを勝ち取ったという。

「夏イチゴ」の産地として有名になった湯沢市は、最盛期には200軒の農家がいた。それが今は60数軒まで減った。その半数以上は高齢者だ。

(Elaine Lies、竹中清、Chris Gallagher 日本語記事作成:久保信博 編集:田中志保)

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