生き残って成長を続けるのは、時代の変化に適応した企業、あるいは変化そのものを引き起こしている企業だ。それに対して他社と同じことしかできない企業、ブームに便乗することしかできなかった企業は淘汰された。
産業別で言えば、前回述べたように、経済危機によって大きな打撃を受けたのは製造業であった。国別で見てもそうである。製造業の比率が低いアメリカやイギリスが経済危機から回復する半面で、製造業の比率が高い日本が低迷から脱却できない。
IMF(国際通貨基金)の世界経済見通し(WEO)の改定版が先般発表されたが、それによると、11年において、アメリカの実質GDPは経済危機以前(07年)のレベルより2%ほど高くなる。イギリスもほぼ経済危機前の水準まで回復する。それに対して日本のGDPは、11年になっても危機前より低い水準だ。
日本が直面しているのは、「先進国において製造業が成り立つのか」という問いなのである。高度成長期からほぼ継続してきた日本の経済構造を、いま基本から見直すことが必要である。
では、どの方向に、どのように見直すべきか?
最も重要なことは、比較優位原則に即した国際分業を実現することだ。具体的には、製造業を新興国に任せ、先進国は高い技術と高い専門性に立脚する産業に特化することが必要である。そのモデルとなるのが、第1回と今回で述べたアメリカの先端企業にほかならない。
日本人の知的能力の高さを考えれば、こうした経済活動は十分実現できる。要は、個人個人の能力を最大限に発揮できるような環境を作れるかどうかだ。それが将来に向かっての日本の課題である。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。
(写真:今井康一)
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