トヨタ、今期業績「横ばい」の意味するもの 前期最高益から踊り場に

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営業利益横ばいを計画する理由は、ほかにもある。そもそも、最高益を達成した前期の利益水準がかなり高いのだ。

前期の営業増益要因を分解すると、前々期から9713億円プラスになったうち、円安効果だけで9000億円の貢献がある。ほかにも販売台数増の効果が1900億円、原価改善で2900億円の押し上げ効果があったが、それらは労務費や研究開発費の増加や米国での大規模リコールに関する情報開示の遅れで課された制裁金などでほぼ相殺された。

今期も引き続き研究開発費を増やすうえ、労務費なども増加基調。円安効果がなくなるため、大幅な増益を達成するためには、まず販売台数をかなり伸ばさなければいけない。

だが、トヨタは今期の販売台数について、連結ベースで910万台と若干の減少を見込む。北米は堅調に伸びるが、消費税の反動減がある日本やタイなど一部新興国の不振が響く。中国を含む小売販売台数では1025万台、伸び率は1%とほぼ横ばいだ。

販売が増えない以上、高い利益成長を達成するには利益率を上昇させるしかないが、トヨタの営業利益率は8.9%と、自動車業界の中ではかなり高い。そうした中で、無理な成長を目指すと、過去の失敗を繰り返すことになりかねない。

成長のための足場固め

もちろん、トヨタが成長への歩みを止めた訳ではない。1000万台時代に適した経営体制を構築すべく動き出している。

昨年4月に導入したビジネスユニット(BU)制では、先進国を見る「第1トヨタ」、新興国を見る「第2トヨタ」など、各BUに大幅に権限を委譲することで意志決定の迅速化を図る。また「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)」と呼ぶ設計や部品のさらなる共通化も進める。国や地域ごとに自律的に組織が動くことで規模のデメリットを克服し、共通化によって規模のメリットを享受する、というのが狙いだ。

それらの取り組みが機能するには、もう少し時間がかかる。今は足場を固める時期というのが、今期の利益を横ばいに設定した意図だ。

「持続的な成長が最大の目的」と豊田社長は言う。5年後、10年後の持続的成長への自信を問う質問には「自信があるからここに座っている」と答えた。

(撮影:尾形文繁)

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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