安倍首相「忖度しないコロナ」には無力だった 未知のウイルスを前にどんな手腕を発揮したか

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2009年の新型インフルの流行時の反省を踏まえて、今後の感染症対策のあるべき姿を検討した「新型インフルエンザ対策総括会議」の報告書では、「保健所や地方衛生研究所を含めた感染症対策に関わる危機管理を専門に担う組織や人員体制の大幅な強化、人材の育成を進める」と提言されている。

この総括会議の報告書が完成したのは2010年7月で、民主党政権下での提言だった。その後を継いだのは2012年末に政権交代を果たした自民党の安倍政権だった。にもかかわらず、保健所の拡充をせず、地方衛生研究所の法的裏付けも放置してきたのは安倍政権なのだ。

報告書では、このほかにも、「アメリカCDC(疾病対策センター)などを参考にして、よりよい組織や人員体制を構築すべきである」などの提言がなされているが、予算措置を伴うものについては放置されてきたのが実情だ。

かつて「悪夢のような民主党政権」と放言した安倍首相。確かに国政を安定させるなど功績は少なくない。だが、こと感染症対策においては、同じ言葉を返されても抗弁できないはずだ。

庶民感情は離れるばかりだった

コロナ禍が深刻化する3月には、「私が決断した」などと、政治主導をアピールする言葉を連発し、6月の会見では、「日本モデルの力を示した」と胸を張った首相だが、実の伴わない首相の言葉に信憑性を見いだせた国民がどれほどいただろうか。

他国ではそれぞれのリーダーたちが、よいも悪いも、その“言葉”によって影響力を行使していた。それと比べて、安倍首相の存在感は薄れるばかり。忖度とは無縁の未知のウイルスに安倍流は通用しなかった。

辰濃 哲郎 ノンフィクション作家

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たつの てつろう / Tetsuro Tatsuno

1957年生まれ。慶応義塾大学法学部を卒業後、朝日新聞社に入社。支局、大阪社会部を経て、東京社会部で事件担当や遊軍キャップ、デスクなどを務める。2004年退社。主な著書は『ドキュメント マイナーの誇り―上田・慶応の高校野球革命』 『海の見える病院 語れなかった「雄勝」の真実』、共著は 『歪んだ権威 密着ルポ日本医師会~積怨と権力闘争の舞台裏』 『ドキュメント・東日本大震災 「脇役」たちがつないだ震災医療』。佼成学園高校で甲子園に出場。慶応大学では投手だった。関連して著書に『ドキュメント マイナーの誇り・上田慶応の高校野球革命』がある。

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