安倍首相「忖度しないコロナ」には無力だった 未知のウイルスを前にどんな手腕を発揮したか
さらに追い打ちをかけたのが、緊急事態宣言の期間中だった4月12日に首相がインスタグラムにアップした動画だ。愛犬を抱いたりティーカップを手にくつろいだりして、「皆さんのこうした(自粛)行動によって、多くの命が確実に救われています」などと呼びかけるメッセージが添えられた。
当時といえば、自粛生活を強いられる多くの国民は不安に陥り、戸惑いが広がっていた。店の経営資金に窮して途方に暮れる自営業者や、多くの人が仕事を追われて失職し、明日の生活さえままならない絶望感に打ちひしがれていた。そんななかで、一見すると優雅に見える動画は、逆に反感を買うことになる。これも庶民感情を見誤った粗忽(そこつ)の極みだ。
一方、コロナ感染の防御対策も後手に回った。3月下旬に感染者が急増して医療現場が悲鳴を上げていた時期、専門家からも緊急事態宣言の必要性が訴えかけられたが、経済を懸念した官邸が宣言したのは4月7日だった。しかも自粛要請を求める業種などで東京都と折り合いがつかずにずれ込む不手際もあった。
首相は国民の前に出る機会が極端に減っていく。緊急事態宣言は5月25日、7週間ぶりに全面解除されたが、この日の首相会見以降、国会が閉会する6月18日まで、首相は一度も記者会見を開いていない。最後の会見は、広島の平和祈念式典に出席した8月6日で、わずか15分間だった。国を挙げてウイルスと闘っているとき、首相は明らかに腰が引けていた。
検査が増えないのは「人的な目詰まりもあった」
首相会見でこんな場面があった。
緊急事態宣言の延長を受けて開かれた記者会見の5月4日だ。ビデオジャーナリストの神保哲生氏の「検査を増やせと指示しても増えないのは、本気で増やそうとしなかったからなのか、増やそうとしたが増えなかったのか」との質問に、首相は、こう答えた。
「本気でやる気がなかったというわけではまったくありません。いわば人的な目詰まりもあった」
自分は頑張っているが、PCRを担う保健所や地方衛生研究所の目詰まりに責任を負わせるような口ぶりだ。
だが、実はこの保健所や地方衛生研究所の態勢整備は、自民党政権が棚上げしてきた感染症対策上、重要な“教訓”だった。
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