納期遅れ相次ぐ「欧州式」鉄道車両開発の弊害 共同開発からメーカー主導への移行が生んだ
いったい、どうしてこんなトラブルが発生してしまったのだろうか。
シュコダの名誉のために言うと、製造の遅延については同社が特別に大きな問題を抱えていたわけではない。あの欧州ビッグスリーと呼ばれたアルストムやシーメンス、ボンバルディアですら、大なり小なり納期に影響が出る遅延は発生している。シーメンスは、ドイツ鉄道から発注を受けた高速列車ヴェラロD(ICE3のマイナーチェンジ版)の納期が大幅に遅れたことで、お詫びにオーダーにはなかった追加の1編成を無償で提供したほどである。
こうした納期の遅れは、欧州全体における鉄道車両の開発システムの変化や、メーカーそのものの統合といったことが大きく関わっている。
もともと欧州は日本と同様、鉄道会社と地元メーカーが共同で車両を開発することが一般的で、特に高速列車は国を挙げての一大プロジェクトだった。
フランスの高速列車TGVは、フランス国鉄とメーカーのアルストムが手を組んでの開発だったし、今や欧州における車体傾斜装置付き高速列車のトップシェアを誇るペンドリーノは、当時のイタリア国鉄とメーカーのフィアットが共同で開発したものだ。日本と同じく、内陸部は起伏があって曲線区間が多いイタリアにおいて、ペンドリーノはその力を十二分に発揮した。それぞれの地域に合ったものを、地元企業と国鉄がしっかりと造り込んでいたのだ。
鉄道民営化が転機に
ところが21世紀に入ると、状況は大きく変化した。多くの国鉄は民営化され、国鉄との共同開発というシステムが事実上なくなり、車両はメーカー主導で開発をしなければならなくなった。各国でのオーダーメイドだった鉄道車両は、自動車と同じ、メーカーが作ってそれを鉄道会社が買うという、レディメイドへと変化していった。
より多くのノウハウを得るために、メーカーは国を超えて買収や合併を繰り返した。生き残りをかけた生存競争が始まり、企業体力の弱い会社は大きい会社へ吸収されていった。イタリアが威信をかけて開発したはずの車体傾斜装置の技術一式は、買収により今ではフランスのアルストムが保有している。
こうして、ここに欧州ビッグスリーが誕生、買収を逃れたそれ以外の中小規模の企業は、どこも厳しい立場に置かれた。生き残るために何をすべきか、これまでずっと地元の鉄道会社を中心に製品を作り続けた地場産業の中小メーカーも、国外へ目を向けなければならなくなった。だが、ここに大きな落とし穴があった。
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