JR、東急…鉄道「ベンチャー連携」の勝者は誰か スピードのJR東日本、「種まき」から始める東急

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ベンチャーとの協業で初陣を切った東急は、東急百貨店ネットショッピングサイトにおけるAI接客期間限定導入、デパ地下グルメのデリバリー試験導入など最近でも応募企業との協業事例を数々と生み出しているが、JR東日本の事例と比べるとやや小粒に感じられる。

そんな状況で、東急は2019年11月、新たな試みをスタートさせた。渋谷に開業した「渋谷スクランブルスクエア」の15階に新ビジネス創出の場となる産業交流施設「渋谷QWS(キューズ)」を開設したのだ。スクランブルスクエアは東急、JR東日本、東京メトロが共同で運営しているので、正確には東急がというよりも3社がというべきかもしれない。

渋谷キューズはコワーキングスペース、イベントホール、サロンなどで構成される会員制の交流施設で、多様な人たちが交流することで社会価値につながる種を生み出すという。渋谷キューズの開発担当者は、「日本には起業の準備段階である“シード”と呼ばれるプレーヤーを支援する仕組みが少ない」と話す。

そもそもベンチャービジネスは失敗するリスクが高いが、中でもシードはことさらリスクが高く、敬遠されがち。しかし、シード、つまり種が芽を出さないことには花は咲かない。そこで渋谷キューズを、シードを支援する場にしたいと考えたのだ。

東急の「農耕型」戦略は花開くか

「渋谷キューズで生まれた種が芽を出したら、東急のアクセラレートプログラムに参加して、芽をはぐくんでもらいたい」。東急はこんな構想を描いている。

東急は8月26日、渋谷区と包括連携協定を締結。スタートアップ企業の支援などを共同で行っていく計画だ(記者撮影)

8月26日、東急はさらなる一手を繰り出した。渋谷区と包括連携協定を結んだのだ。外国人が起業しやすい環境づくりや、スタートアップ企業の実証実験から実装に至るまでの支援を区と東急が共同で行っていくという。「最近は実証実験自体が目的化している例が目立ち、”実証実験疲れ”という状況になっている。渋谷という町で実装できるようにしたい」と、東急の東浦亮典渋谷開発事業部長は狙いを語る。東急はこれまでも沿線の各所で実証実験を行ってきたが、今回新たに渋谷という巨大な舞台が加わった。

狙いを定めたスタートアップ企業に貪欲に食らいついていくJR東日本を狩猟型だとすれば、渋谷キューズで種をまき、アクセラレートプログラムで育て、渋谷の街で花を咲かせるという東急の戦略は農耕型だ。渋谷で花開くビジネスが1つでも2つでも生まれれば、東急の農耕型戦略は本物だといえる。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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