難病のホーキング博士が見出した「幸福の指標」 心や思考が自由である限り、人間に限界はない

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しかしながら、ホーキング博士が素晴らしいのは、普通の人間であれば生きる希望も勇気も萎えてしまうような状況の中、その悲劇にだけ自分の心を置かなかったことだと思います。

「不運にも運動神経系の疾患にかかってしまったが、それ以外はほとんどすべての面で幸運だった──とくに理論物理学を学んだのは幸運だった。理論はすべて頭の中のことだからだ。おかげで病気は深刻なハンディキャップになっていない」(『ホーキングInc.』より)とホーキング博士は言っています。

確かに、宇宙の謎や宇宙の成り立ちに脳内で想像を巡らすとき、ALSはハンディキャップになりません。ホーキング博士は自分に残されている力と可能性を信じ、見事に成果につなげ、偉大な科学者としての人生を開拓しました。

また、こんな言葉も残しています。

私たち人類は肉体的には非常に限られていますが、心は宇宙全体を自由に探検することができます(『ホーキング、未来を語る』より)

心や思考は、どこまでも自由自在に探究できる──それが人間という生命体に与えられた特権ではないでしょうか。

われわれの肉体には限界があり、羽ばたいて空を飛びたくても、それは叶いません。しかし、だからこそ心や思考から生み出したテクノロジーを活用することで、宇宙に飛び出す文明をも築き上げることができました。われわれにはどんな肉体的な制約があろうとも、心や思考が自由である限り、人間に限界はないとホーキング博士は言っているのだと思います。

逆境のなかでも努力を続けられた理由

ホーキング博士には科学を探究するための類い稀な資質がありましたが、逆境の中ですら自分の可能性を信じる強靭なメンタリティーこそが、彼にとって最も重要な「才能」だったように感じます。

われわれはしばしば、自分にできない物事を悔やみ、自分に足りないものを欲し、他人にそれを見つけてはうらやみます。自分に足りないものについては敏感なくせに、自分の手の届くところにある幸運には鈍感なところがあります。結局のところ、一人ひとりの人間を取り巻く状況や才能は千差万別であり、強みも弱みもひっくるめて、すべてが人それぞれです。

しかし、それは不幸なことではないはずです。一人ひとりが異なる種を持っていて、その花を咲かせる方法も、その道筋も千差万別なのだと思います。いくつもある道筋の中で、ただ一つだけ共通するポイントがあるとしたら、自分がどういう人間なのかを知り、自分の才能を伸ばす方法を見つけ出し、それを信じて徹底的に努力をすること。それこそが、ホーキング博士のように、逆境のなかにあっても自分の人生を輝かすことができる生き方なのではないでしょうか。

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