超新星「東大発ベンチャー」に漫画界が見る光明 革新的な「自動翻訳」で世界同時配信に挑む

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開発中の、文脈翻訳のサンプル。キャラクターの違いを認識して翻訳することができるようになるという©Mitsuki Kuchitaka

目下開発中なのが、前後のストーリーを推測しながら翻訳する技術だ。漫画には、吹き出しを上から順番に対訳するだけでは、文法の違いなどにより意味が通じないケースがある。それを、前後の文脈から推測することで自然な順番に組み替えて訳すという、高度な挑戦だ。「将来的には、登場人物の性別を認識してそれに合った語調にする、キャラクターに合った訳をする、といったことができるようになるかもしれない」と石渡氏は熱を込める。

こうした技術でマントラが目指すのは、漫画の翻訳にかかる時間を短縮し、日本と海外でタイムラグなく新作漫画を読めるようにすること。これが実現すれば、海外ではびこる海賊版サイトの抑止力となる可能性もある。

英語、フランス語、中国語――。5月末、人気少年漫画『鬼滅の刃』の最終回がコミック誌に掲載されると、インターネット上にはその日のうちに、さまざまな言語に翻訳された無料の誌面が無数にアップロードされた。著作権のある誌面を違法にコピーした、いわゆる海賊版だ。

日本の漫画は世界中で読まれているが、実はこうした海賊版で読まれているケースは少なくない。これではいくら海外で漫画が人気になっても、作者や出版社に利益は還元されない。ただ、海賊版が蔓延するのには理由がある。

公式配信のスタートで海賊版が減ったケースも

マントラがSNS上で行った海賊版利用者に対する調査(複数回答)によれば、海賊版を読む理由の61%が「読みたい漫画が公式に翻訳されないから」。そして、56%が「公式で翻訳されるより早く読みたいから」だった。「タダで漫画が読めるから」と答えた比率は46%だった。

というのも、日本の漫画が海外で翻訳されるためには、日本の出版社が海外の出版社からライセンス許諾の問い合わせを受け、それを許可することが必要となる。それから業者による翻訳作業に入るため、出版までに時間がかかるうえ、流通する作品数も限られる。前述の海外漫画市場がそこまで大きくないのは、こうした事情も背景にある。マントラで企画・編集を担当する山中武氏は、海賊版サイトの運営者にヒアリングを重ねた結果「ファン活動として海賊版の作成に取り組んでいるのでは」と推測する。

その証拠として、『週刊少年ジャンプ』など複数の漫画雑誌をもつ集英社が今年1月から翻訳版のオンライン配信をスタートすると、海外の巨大海賊版サイトが閉鎖されたり、複数のサイトで公式配信されている作品の海賊版を掲載取りやめにしたりする動きが起きている。

石渡氏は「自動翻訳エンジンによって、週刊誌連載のような更新頻度の高い作品でも、世界同時配信ができるようにしたい」と意気込む。世界中の人が、連載の最新話を読んで感想を語り合う――。そんな未来が実現する日が来るかもしれない。

『週刊東洋経済』8月22日号(8月17日発売)の特集は「すごいベンチャー100 2020年最新版」です。
印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界、総合電機業界などの担当記者、「東洋経済オンライン」編集部などを経て、現在は『週刊東洋経済』の巻頭特集を担当。過去に手がけた特集に「半導体 止まらぬ熱狂」「女性を伸ばす会社 潰す会社」「製薬 サバイバル」などがある。私生活では平安時代の歴史が好き。1児の親。

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