感染者4人で再封鎖「ニュージーランド」の凄み ハードな短期戦で再びコロナ撲滅を目指す

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アーダーン首相に感染発生の可能性を告げる第一報が届いたのは11日の午後4時。マスク工場を訪問し、首都ウェリントンから数時間の所をバンで移動しているときだった。午後9時15分、アーダーン氏と保健省のアシュリー・ブルームフィールド長官は記者会見を行い、新たな感染例を確認したと公表。翌日からロックダウンを再開すると発表した。感染者4人は全員同じ家族で、最近海外から帰国した者は含まれていなかった。

「私たちはここまでやってきたのだから、後戻りすることはない」と、アーダーン氏は呼びかけた。「強さと思いやりを持ってほしい」。ロックダウンは当初3日間とされたが、接触者の追跡はすでに始まっていた。

感染が再発したのはなぜか

初めて感染拡大が起こった数カ月前、ウイルス根絶に向けたニュージーランドの強硬策を強く支持した疫学者のマイケル・ベイカー氏は、ロックダウン再開が発表される数時間前に新規感染が確認されたとの情報を得た。どこで何が間違ったのか。ほかの専門家同様、ベイカー氏もただちに解明作業に取りかかった。

ベイカー氏は言う。「ニュージーランドの街中でウイルスが現れたということは、国境を越えて持ち込まれたとしか考えられない。この国ではウイルスは根絶されていた。3カ月もの間、見つからずに存在し続けていたとは到底考えられない」。

しかし国境のどこから、どのようにして、いつ入り込んだのかは、まだわかっていない。

保健省長官のブルームフィールド氏が13日に語ったところでは、新たな集団感染の感染者は7月末頃に症状が出始めており、ウイルスは少なくともその1週間前から市中に存在していたとみられる。遺伝子解析の結果、今回のウイルスにはイギリスやオーストラリアで見つかったウイルスと類似点のあることがわかっている。

輸入貨物を通じて広がった可能性を調査するため、保健当局は今回、感染者の一部が見つかった冷蔵倉庫会社アメリコールドの全従業員を検査し、迅速検査の結果、合計7人の感染を確認した。食肉加工工場の冷蔵室で感染が広がった他国の事例をふまえ、科学者らは同社の2つの施設の表面も検査した。

仮にウイルスが貨物経由で移動したことが判明した場合には、世界貿易に甚大な影響を及ぼす可能性がある。徹底した消毒や、出荷と納品の待機時間をより長くするなどの対応に加え、船や港の監視強化が必要になるかもしれない。

ただ疫学者らは、このような経路で感染が広がるとは考えにくく、最も可能性が高いのは人と人との接触による感染だと話す。ブルームフィールド氏によれば、「感染の90%が家庭や職場で起こっている」。

これまでの集団感染は、キッチンや休憩室などで広まったとみられている。13日に報告された新規感染者の1人は、11日に見つかった感染者とつながりのある学生と関連していた。ほかの7人はアメリコールド従業員の家族だ。

新規感染者は全員、政府の隔離施設に移される。つまりウイルス封じ込め策は、3〜4月にニュージーランドで最初にロックダウンが実施されていた頃と比べても、一段と強化されたことになる。

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