あの無印良品が味わった「停滞」の意外な歴史 成功体験に縛られれば危機が訪れるという教訓

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良品計画の親会社である西友は、セゾングループの中核を担う1社でした。セゾングループとは、西武百貨店を中核として、ワンマン経営者・堤清二氏がトップダウンで経営にあたった個性的な企業集団です。「セゾンの社風」の最大の特徴は「個人の感性」を生かすという点で、まったく新しいブランドのコンセプトなどを生み出す「0→1」の局面では、圧倒的な強さを誇りました。

しかし、確立されたブランドを成長させる「1→10」のフェーズでは、「感性の経営」は大きな弊害となります。事実、良品計画においても、商品の在庫管理や店舗マネジメントのマニュアル化などの地道な業務改善は軽視され、売上高・在庫・商品開発コストといった基本的な数字を経営層ですら把握できていないことが常態化していました。

加えて、1990年代後半の良品計画には、「親会社である西友を抜いた」ことによる驕りが蔓延しており、社員ですら無印良品の商品の改善を怠っていたのです。

そんな良品計画の隙をついたのが、ユニクロやニトリなどの専門店でした。とくにユニクロは、当時のファッション業界では考えられない「出店スピード、商品の品質、商品の安さ」によって、瞬く間に消費者の支持を集めます。

こうして、「感性の経営」による成功体験を乗り越えられず、良品計画は2000年2月期決算で減益を発表します。急成長企業の減益が市場に与えたインパクトは凄まじく、1999年末には2万円台だった良品計画の株価は、2000年3月には3000円台まで急落し、当時の社長が経営責任を取って辞任する事態にまで陥りました。

「過去の成功体験」が組織の足を引っ張る

業績悪化で辞任した前社長に代わって、このとき良品計画の社長に就任したのが、1991年に西友から出向した松井忠三氏でした。

就任当初、各店舗を巡回した松井氏が見出した問題点は、「店舗が汚い」ということでした。売れ残った在庫を消化するための値引き販売が積極的になされ、その値引き商品が乱雑に並べられていたため、各店舗が雑然としていたのです。

そこで松井氏は、売価にして約100億円に相当する在庫処分を決行します。財務上で38億円の在庫を特別損失として計上することになりましたが、商品の循環を改善させ、業績悪化の「止血」を試みました。このとき、衣料品などの一部の商品は、あえてその責任者の目の前で焼却処分されました。そうすることで、現場の意識を変えようとしたのです。

では、この「新品在庫の焼却処分」によって、狙いどおり、現場の意識を変えることはできたのでしょうか。その答えはNOでした。ひとまず解消したはずの在庫は、翌年にはまた積み上がってしまったのです。

次ページ問題は「在庫を生み出し続ける仕組み」にあった
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