大学入試「倫理」は受験生に何を求めているのか 2021年から試される「思考力」の正体
このように、従来型の設問やその変形などの出題が多く、問われる知識・技能はこれまでとあまり変わりはありません。
「倫理」試験の珍問題
共通テストの試行調査(2018年度)では、少々“珍問題”ですが、このようなものがありました。
Ⅱ.ジェリコ「エプソムの競馬」(1821)
Ⅲ.モネ「サン・ラザール駅」(1877)
という3つの絵画の解釈を解答するという、これまでのセンター試験でもほとんど例のない「新傾向問題」です。
Iは、「モナリザ」にひげを落書きしたような作品、Ⅱは4人の男性が競馬をしている様子、Ⅲは駅に蒸気機関車が入ってくる情景、です。(実際の絵画はこちらよりご覧ください)
確かに倫理では「芸術論」というテーマについても学びますが、出題された絵画は「倫理」で学習する知識事項ではありませんから、戸惑う人もいるでしょう。
この問題を解くためには、選択肢の「説明」に盛り込まれているカギとなる語句に注目することがポイントになります。
まずは、選択肢のアの説明では、「一瞬が画像として定着される」とありますので、馬が走るその「一瞬」を切り取ったⅡの作品だと考えられます。したがって、アはⅡと結び付くと考えるのが妥当でしょう。
次に、選択肢のイの説明では、「新しい技術」という語句に注目します。Ⅲには、鉄道や機関車という19世紀から本格的に発展する「新しい技術」が描かれていますので、イはⅢと結び付くと考えるのが妥当でしょう。
最後に、選択肢のウの説明を考えてみます。「作品を生み出す芸術家の役割そのものが主題化」とあります。ⅡやⅢの絵画には、馬や鉄道という対象が描かれているだけで、制作者である芸術家の役割が重要となる要素はありませんから、ウは、ⅡやⅢではなく、消去法でⅠと結び付くと考えられます。
実はこのⅠは、現代アートの創始者であるマルセル・デュシャンによる、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」が描かれた市販のポストカードにひげを付け加えたという作品です。美術に造詣の深い人であれば「大量生産」というキーワードが「ポストカード」につながったかもしれませんが、正直なところ、この作品を知らない人も多いのではないでしょうか。そうなると、Ⅰとウの正確な判断は難しいところですが、残る2作品と説明の組み合わせから正解を確定するのが現実的な解答方法でしょう。
ですが、Ⅲの汽車の煙も「一瞬」といえば一瞬ですし、汽車の情景を「自然」と感じる人もいるでしょう。絵画というものはいろいろと解釈できるわけですから、これは少々、微妙な設問かもしれません。
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