第一三共、アストラゼネカと提携深化の可否 がん治療薬を強化、開発のスピードアップも

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今回提携に至ったDS-1062も、エンハーツと同じく「抗体薬物複合体(ADC)」と呼ばれるタイプのがん治療薬だ。従来型の抗がん剤とセットで搭載されている抗体が、がん細胞そのものに結合することによって、がん細胞をピンポイントで攻撃することができる。

ADCは従来型の抗がん剤よりも副作用が少ないうえ、高い治療効果が期待されている。大型薬化の可能性について問われた第一三共の眞鍋淳CEOは、「DS-1062にもエンハーツと同様の期待をしている」と話した。

がん治療薬のトップメーカー目指す

がん治療薬市場は最も競争の激しい領域だ。生活習慣病などの治療薬は開発され尽くしたといわれているが、がん領域はまだ多くの治療ニーズが残っている。薬価も高額で、高い収益性が見込めるため、世界の大手製薬企業が開発を競っている。

アストラゼネカとの提携深化を選んだ第一三共の眞鍋淳CEO(写真は2019年3月、撮影:尾形文繁)

第一三共は、2025年までに「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」への転換を目指している。国内では売上高トップだが、海外展開は武田薬品などに見劣りし、がん領域での存在感も薄かった。

海外展開やがん領域強化の足がかり役を担うのがエンハーツであり、同じ技術を活用して開発を進めるDS-1062なのだ。眞鍋CEOは「当初は自社開発・販売を考えていたが、内外の環境変化によって(アストラゼネカとの)提携を選択した」と説明した。

外部環境の変化とは、4月にアメリカの製薬企業・イミュノメディクス社が同じADCのがん治療薬を発売したことだ。がん種の違いはあるとはいえ、ADCの競争は激しくなっており、第一三共としては提携によって開発スピードを上げる必要があった。

また、眞鍋CEOは「ほかの薬剤候補が充実してきた」とも述べた。第一三共の薬剤候補は開発の初期段階が多いが、契約一時金で得られる多額のキャッシュや開発費の折半で浮いた費用を使い、こうした候補品の開発を進めたいという事情もある。

ただし、医薬品アナリストの間では、第一三共とアストラゼネカとの提携強化について、懸念の声も聞かれる。提携発表の電話会議では「アストラゼネカとの関係が深くなりすぎているのでは」との質問が出た。大型化が期待される2つのがん治療薬でともにアストラゼネカとの提携を選んだことで、将来的に第一三共は収益の大部分をアストラゼネカ1社に依存することになりかねない。

とはいえ、今回の提携は第一三共にとってポジティブであることに変わりはない。まだ初期段階にあるDS-1062の開発を成功させ、提携によってできた余裕で、続くほかの候補をどれだけ育てられるかが問われている。

石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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