日本はコロナ大量感染の米国よりも深刻になる 今後の「経済の下振れリスク」はかなり大きい

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一方、日本に目を転じると、アメリカほど規模は大きくないが、安倍政権によって相当規模の財政政策が発動されている。リーマンショック時に発動された定額給付金は2兆円規模と極めてわずかだったが、今回の危機時の現金給付は約13兆円である。さらに、中小企業への持続化給付金、家賃支援金など約6兆円の補償金支給が進みつつあり、総額19兆円規模の政府資金支給は、GDPの3.8%に相当する。

アメリカより日本経済の下振れリスクが大きい理由

だが、アメリカで5月までに支給がほぼ終わった現金給付は、日本では7月までずれ込み、また雇用調整助成金の支給も進んでいない。19兆円規模の政府資金給付には予備費が上乗せされるとみられ、相応に大きな所得補償政策なのだが、危機対応としてアメリカと同じ早さで資金支給が実現しないことは日本の経済政策運営の大きな問題の1つだ。

また、7月に入ってから東京都を中心に新型コロナウイルス新規感染者が増えており、公衆衛生政策を引き続き徹底させる必要がある中で、「Go to Travel キャンペーン」を巡り、状況が混沌としている。

この政策は、新型コロナウイルスが落ち着いた後に経済成長を後押しする対応と位置付けられる。そのため、感染防止を再び徹底する必要がでてきた局面では延期するのが望ましいと思われる。コロナショックの被害が甚大な旅行関連企業への一定の救済が必要であるなら、持続化給付金の拡大・延長などの対応が、公衆衛生政策の観点から好ましいだろう。

そして、経済活動の基盤を保つために、アメリカと同程度に財政赤字を拡大させることで、日本でも同様の経済政策を強化する余地がある。ただ、こうした経済政策の必要性を理解できる政治家は、今の日本ではごく少数派とみられる。今後本格化する労働市場における調整が深刻化するなど日本経済の下振れリスクは、備えが十分なアメリカと比べて、かなり大きいと筆者は引き続き懸念している。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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