日本はコロナ大量感染の米国よりも深刻になる 今後の「経済の下振れリスク」はかなり大きい

拡大
縮小

なお、2010年から同国の財政赤字は緩やかな縮小が続いたが、2010年から財政政策は経済成長率を若干押し下げる方向に作用した。つまり、2010年初来以降のオバマ政権下での緩やかな経済正常化は、米連邦準備制度理事会(FRB)による金融緩和徹底によって実現したのである。したがって、仮にオバマ政権下で、より積極的な財政政策が実現していれば、同国経済の正常化はもっと早期に実現しただろう。

同国では今年6月時点でGDP比14%規模まで財政赤字が増えているが、これは第2次世界大戦時の1943~45年に同20%以上に拡大して以来の出来事である。今後、医療関連の歳出拡大などタイムラグを持って増える歳出があるため、さらに財政赤字は拡大する。なお、議会予算局は、すでに財政赤字が3.7兆ドル(GDP比約17%)まで拡大する想定を示している。

もし政策対応が「行き過ぎ」だったらどうなる?

7月20日から米議会で審議されている追加財政政策の規模については、筆者は事前の市場想定よりも小規模に止まるリスクがあると警戒している。ただもしこの規模が膨らめば、先述の議会予算局の見通しを超え財政赤字はGDP対比20%以上まで増えるだろう。トランプ政権は、第2次世界大戦期と同規模で財政政策を発動する可能性があるといえる。

コロナ危機の対応に、第2次世界大戦と同規模の財政政策が必要なのかは議論が別れるところだろう。ただ正体が判明しない新型ウイルスへの公衆衛生政策を徹底しながら一定程度の経済活動を保つためには、補償金給付を中心とした大規模な財政政策の発動が必要不可欠だと筆者は考える。

それでは、現在の政策対応が行き過ぎであった場合は、どのような弊害が将来生まれるか。もし弊害が出てくるとすれば、以下の2つが主たる経路になるだろう。(1) 財政政策が景気過熱をもたらしインフレ率を大きく上昇させる、(2)過剰な政府支出が資源配分の歪みをもたらし民間の経済活動を阻害し長期的な経済成長率が抑制される、の2つである。

だが、これらの問題が顕在化するかどうかは、アメリカ経済が正常化した後の政策対応次第である。つまり、財政赤字が一時的に大きく増えたという現象そのものだけでは、深刻な経済問題にはつながらないと筆者は判断している。

大規模な政策が実現しても、危機に対する経済政策は難しい。6月後半から新型コロナウイルス感染防止と経済再開のバランスをうまくとることができずに、アメリカでは再び新規感染者や死亡者が増えており、直近では感染者数は400万人を突破している。経済の回復が一筋縄には進まず、アメリカの州政府は試行錯誤を迫られているわけだ。

大規模な財政政策が発動されても緩やかな経済復調にとどまり、コロナ後の世界において、一部の業界では需要が相当下押しされそうだ。このため、効果が高い景気刺激的な財政金融政策が今後も適切に持続するかどうかが、アメリカ経済と株式市場にとって引き続き最も重要になると筆者は考えている。

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