「バンクシー」消した地下鉄、判断は適切だった? 欧州の鉄道、「落書き」の被害は深刻な問題

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その理由は、発表時にはすでに車内から消されていたためだった。交通局はバンクシーの動画公表後、「バンクシーのことを知らない交通局の清掃スタッフが消した」と発表した。つまり、ほかの落書きと同様、あっさりと消される運命をたどったわけだ。

ロンドン東部にある雑居ビルの駐車場に2011年に描かれたバンクシーの作品。「路上落書きの傑作の1つ」と評されている(筆者撮影)

ロンドン地下鉄の全車両には監視用のビデオカメラ(CCTV)が取り付けられており、あれだけ派手な「落書き」をすれば、描いた直後には当局にバレていたかもしれない。実際、ロンドン交通局は地下鉄やバスの車両内で不審なことが起こった場合、その場で乗客全員を降ろして車庫に急行するという対策を取っている。

バンクシーの作品は芸術として高い評価を受けている。今回の作品をめぐっては、ロンドンの画商が値踏みを行っており、評価額は750万ポンド(10億2000万円)前後とみられている。ただ、これには地下鉄車両そのものの価格は含まれていない模様で、仮に誰かが落札したとしても現物の入手は事実上困難だっただろう。

バンクシーには熱烈なファンもおり、そうした人々の間からは「実際にその電車に乗りたいので、走っているところを教えてほしい」といった声も聞こえてきたほか、「ひょっとしたら、コロナで疲弊したロンドンの観光業界への大きなプレゼントになったかもしれない」と惜しむ声もある。

「落書き」は欧州鉄道の悩み

ただ、欧州では鉄道施設への落書きが後を絶たない。中には落書きが車両外壁全体に渡って描かれており、しかもその上からさらに新しい落書きが加えられ、元の塗装が全くわからない――といったひどいケースもある。

幸いなことにロンドン地下鉄では、車両内外の落書きを目にすることは割と少ないように感じる。ただ、落書き対策のコストは消すだけで少なくとも毎年1000万ポンド(13億円強)、落書きされた窓などの交換には3800万ポンド(約50億円)もかかっているという。

こうした落書きについて英交通警察は「公共の場での落書きは、乗客らを不安に感じさせる上、早急に除去対応をしなければさらに別の落書きが増える可能性がある」と指摘。ひいては「鉄道の利用そのものへの不安ももたらす」と深刻な影響が広がるとの見解を述べている。

チューリッヒ中央駅に停車中のスイス国鉄の車両。欧州では鉄道車両への落書きが至るところで見られる(筆者撮影)

鉄道だけでなく、建物の外壁やガード下などに落書きを見ることがあるが、こうした様子は「その地域の治安や民度のバロメーター」という考え方がある。確かに、落書きが目立つところでの1人歩きは怖いと感じる人も多いことだろう。

そんな中、徹底的な落書き撲滅に向けた取り組みを行っている例がある。

ドイツ鉄道(DB)傘下のDB サービスは、車両や駅などにひっきりなしに描かれる落書きに業を煮やし、低コストかつ簡単な手間で消せるノウハウを蓄積している。デモンストレーションの様子を2018年秋に開催された欧州最大の鉄道見本市「イノトランス」の会場で見ることができた。

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