山下智久出演Huluドラマが「アジア1位」の理由 南極サバイバルスリラー「THE HEAD」の魅力

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『THE HEAD』のメンバーが出席したフランス・カンヌのテレビ見本市MIPCOM2019のトークセッションで山下智久の流暢な英語の回答も(筆者撮影)(筆者撮影)

製作背景としては日本のHuluもこの大型国際プロジェクトに乗り込み、メディア・プロ・スタジオと日本のHulu、それからHBOアジアの国際共同製作ドラマという立て付けです。海外ドラマの世界では今、こうしたザ・インターナショナルのかたちで成立させるものも増え、ハリウッドで作られるドラマに対抗した世界ヒット作も多いのです。『THE HEAD』もどちらかというと欧州テイストが色濃く反映され、人間の欲望をえぐり出して描く欧州のドラマ好きが好む殺人ミステリー作品と言えます。

アジア人で唯一キャスティングされている

さて、製作事情を知ってしまうと余計に、日本人で唯一、アジア人でも唯一キャスティングされている山下が世界を舞台に日本を代表して孤軍奮闘しているかのようにもみえてきます。

実際に撮影ロケーション地の1つ、スペイン・テネリフェ島で、2カ月以上単身で通訳を付けずに撮影に臨んだことが現地で2019年9月に行われた取材会などで伝えられています。さまざまな言語や文化が交錯するキャスト・スタッフの中で「不安になって戸惑うこともありました」と素直な心境も告白していた山下ですが、最終的に手応えを感じるようになったことは劇中での活躍ぶりで確認することができます。

日本の視聴者を多少なりとも意識してか、役どころも実に好感度の高い日本人役であることもこれまでの純粋な海外ドラマにはあまりない設定です。朴訥で正義感が強く、山下の恋人役である新人女優のキャサリン・ネドオリー演じるマギーに誠実さをつねに見せる顔も性格もイケメンといった具合。氷点下の中で、2人の熱いシーンもあります。

物語のカギを握る新人女優のキャサリン・ネドオリーは山下智久の恋人役(写真:Hulu)

たとえ山下の特別なファンでなくても、見ているうちに応援したくなってしまうのではないでしょうか。

「インスタグラムのフォロワー数512万人以上」「35歳の歌手で俳優で、やまぴーの愛称で親しまれる日本の大スター」などと、すでに認知度の高いアジアだけでなく、欧米のメディアが丁寧に取り上げているものを目にすると、各国のドラマファンの心を捉える役者がもっと増えてもいいのではないかと思います。

世界的な規模で作られ、世界の幅広い地域で視聴されているドラマに、才能のある多くの日本人の役者が活躍できる、夢のある場がもっと作られてほしいとも思います。「英語が話せる役者は限られている」という話も聞きますが、多国籍ドラマでは多少の母国語なまりの英語の発音がかえってキャラクターの深みを増す効果が狙えるはずです。

長谷川 朋子 コラムニスト

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はせがわ ともこ / Tomoko Hasegawa

メディア/テレビ業界ジャーナリスト。国内外のドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。最も得意とする分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威ある「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や、業界セミナー講師、札幌市による行政支援プロジェクトのファシリテーターなども務める。著書は「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。

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