日本産業パートナーズ、再編担う黒子の正体 大手企業の事業再編で活躍、その強さの秘密は?
「大企業のノンコア事業はしばしば優秀な人材や知的財産、事業ノウハウを持っている。だが、企業としての全体最適のために予算や人材の採用面などで切り詰められるケースが多い。そうした部門の独立化を支援するのが、われわれの使命だ」と馬上氏は話す。
その考え方は、苛烈な人員削減と事業のリストラで目先の利益確保を狙うファンドとは一線を画す。少額出資にとどめ、成長余力も未知数な企業に賭けるベンチャーキャピタルとも違う。不遇だが地力のある事業に新規資金を提供し、従業員のやる気を高め、独立独歩の成長に道筋をつけるというやり方だ。レーザーフロントの高島元社長が「経営はフリーハンドで任せてもらえた」と話すように、投資先の企業と数カ月かけて事業計画を作った後は、基本的に現場に委ねている。
独自の手法で地道に投資実績を重ねていくことで、主な資金提供元である日系の生損保、地方銀行、年金基金からの信用も高まっていった。機関投資家の裾野が広がり、1社当たりからの資金提供額も拡大。より多くのカネを集めることが可能となった。05年に組成した第2号ファンドの規模は約300億円、08年の第3号ファンドは600億円規模に成長した。JIPの従業員も25人になった。
業界再編の「仲介役」も
大型案件に乗り出す転機は11年3月。東日本大震災に見舞われた当時、JIPは協和発酵キリンの化学品子会社(現KHネオケム)を500億円超で買収した。さらに12年9月にはオリンパスからITXを530億円で買収し、業界の話題をさらった。
ソニーのパソコン事業とNECビッグローブの買収は合計1000億円を超す見通し。もっとも、ソニーのパソコン事業は中国や台湾勢に押されて赤字体質に苦しむ。「上場を目指す」(古関義幸社長)というビッグローブは黒字こそ維持しているが、ネット接続の主流が得意のパソコンからモバイルへ移行しており、先行きは決して明るくない。
実際、過去の投資案件がすべてうまくいっているわけでもない。筆頭株主として36%出資するコンデンサーとプリント配線板などを製造するエルナーは、06年の出資後、幾度も業績の下方修正を繰り返している。最終利益も赤字から黒字、また赤字と安定しておらず、明確な成長路線に乗せることができていない。
しかし、馬上氏は強気姿勢を崩さない。「『どうしてこんなところに投資するのか』、『やめたほうがいい』、と言われたことは過去に何度もあった。もし、誰もが認めるよい案件ならば、ファンドの手元に来ることはなく、大企業自らが再建を手掛けているだろう。深刻な苦境に陥った事業に新しい知恵を出して価値を高めるのがわれわれのチャレンジだと思っている」。
ビッグローブ買収を受けて、次は富士通系のニフティ買収に食指を動かしているともいわれる。そして、両社を組み合わせた事業価値の向上を狙っているといった見方もある。JIPの投資案件はこれまで単一企業ばかりだったが、業界再編の「仲介役」となる意欲も隠さない。ISP業界に限らず、「再編がその業界に求められているならば、ぜひともそうした役目(仲介)を引き受けたいと思っている」(馬上氏)。急速に勢いを増すファンドは、今や日本の産業再編のキーマンになりつつある。
(週刊東洋経済2014年5月3日・10日合併号〈4月28日発売〉 核心リポート01に一部加筆)
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