リニア「ルート変更」静岡知事が明かす発言の裏 JR東海社長への「あいまい対応」の理由も説明

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今回の会談は川勝知事が準備工事を認めず、物別れに終わった形となったが、実は事態の打開に向け一歩前進した部分がある。それは、国交省と流域10市町の首長の直接対話が可能になったということである。これが会談の流れで出てきた思いつきの提案ということはないだろう。川勝知事の頭を飛び越えて各首長から個別に不安な点を聞き出し対策を講じることで、準備工事開始の糸口にしたいと考えているはずだ。

「大井川の水は重要なのでトンネル工事は認めない」ことで各首長の認識は一致しているが、水に影響を与えない準備工事であれば認める自治体が出てくる可能性もある。次官と知事の会談終了後、島田市の染谷絹代市長は「反対をする権限というか、理由を探すのが難しい。国交省からお話があればぜひ直接伺ってみたい」と話した。もっとも、国交省は昨年11月にも審議官が流域市町を訪ね、各首長と会談したが、目立った成果は上がらなかった。今回、首尾よく進む保証はどこにもない。

知事は「ルート変更」の発言も

今回の会談では、川勝知事がリニアのルート変更について発言した点も注目される。知事は7月9日付日本経済新聞で鈴木敏夫・川根本町長の「流域市町でもルート変更を1つの案としてはどうかの意見がある」というコメントを引き合いに出したほか、10日の県議会危機管理くらし環境委員会で、「ルート変更も含めた交渉をするべき」という発言があったことも紹介した。

記者会見で知事は、「ルート変更は私の考えというよりも県議会で出てきた議論ということでご紹介した」と説明したが、「ルート変更の議論は表に出ていないだけでこれまでもあった」という。

一方の藤田次官は記者会見で、「ルート変更までには、ルートの決定、環境アセス、工事認可と、長いいろいろな議論がある。軽々しく議論するものではない」と一蹴した。

今のところ、JR東海も国交省もリニアの2027年開業という旗印は下ろしていない。しかし、もし間に合わないということが正式に発表されたら、新たな開業時期を含めた仕切り直しの議論において、静岡県がルート変更を検討の俎上に乗せるよう要求する可能性がある。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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