「出勤を再開する人」を増やす日本株式会社の闇 メンバーシップ型雇用が生み出す弊害

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経理部長は社長の気持ちを忖度し、「いや、あの在庫はまだ売れる可能性があるから、今期に償却するのは時期尚早だ」と言って、Aさんを押しとどめる。Aさんがこれに反発するようなら、「きみはまだ、うちの会社のことがわかっていないな。会社のことを第一に考えろ」と言って、否定するのである。

こうして、ジョブ型の導入はうまくいかず、メンバーシップ型が生き残る。メンバーシップ型ではメンバー同士の人脈が最重要だから、フェース・トゥ・フェースのコミュニケーションは決定的に重要である。顔を合わせて話をし、夜一緒に飲みに行き、お互い腹を割って話し合ってこそ、本当の人間関係が構築できる。

もし、在宅勤務をしない部下と在宅勤務を週に2回やる部下とがいれば、間違いなく上司は在宅勤務をしない部下を高く評価する。こうなることがわかっているから、「日本株式会社」のサラリーマンはせっせと会社に足を運ぶ。「在宅でもいいよ」という会社の言葉を信じて、会社に行かなくなった人たちは、確実に昇進レースから落伍していく。

「日本株式会社」をジョブ型雇用に変える方法

筆者はハッキリ言って、「日本株式会社」全体をジョブ型雇用に変えることなど不可能だと思っている。「日本株式会社」を代表する大手企業の大半は、メンバーシップ型雇用のサラリーマン企業としてシステムが完成しているので、今さらジョブ型雇用に変えることなどできるはずがない。

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期待できるのは、外資系企業やオーナー企業、ベンチャー企業だ。これらの企業の経営者には、生産性の低いメンバーシップ型雇用を維持する余裕はない。

社員にスキルを発揮してもらい、結果を出してもらってこそ、会社としていい結果が出せるのであるから、ジョブ型雇用との親和性は大きい。

日本に大きなプレゼンスを有するマイクロソフトやグーグルなどの外資系企業、ユニクロ、ソフトバンク、日本電産、楽天などのオーナー企業に、一層ジョブ型雇用を推進してもらいたい。彼らがジョブ型雇用を打ち出し、魅力的な報酬をオファーし、そこでスキルを培った人に大きな転職市場ができてくれば、そこを目指す若者が増えてくるはずだ。

それでも、現時点ではこうした企業は少数だ。その数を増やすべく、国はどんどん外資系企業を受けいれ、ベンチャー企業を生み出していく必要がある。国がそこに大きな予算をつけ、支援に乗り出せば、大手企業も自社の人間が外資系やオーナー企業、ベンチャー企業に移っていくのを防ぐために、いずれジョブ型雇用に踏み切らざるをえなくなるのではないだろうか。

植田 統 国際経営コンサルタント、弁護士、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授

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うえだ おさむ / Osamu Ueda

1957年東京都生まれ。東京大学法学部を卒後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。ダートマス大学エイモスタックスクールにてMBA取得。その後、外資系コンサルティング会社ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PWCストラテジー)を経て、外資系データベース会社レクシスネクシス・ジャパン代表取締役社長。そのかたわら大学ロースクール夜間コースに通い司法試験合格。外資系企業再生コンサルティング会社アリックスパートナーズでJAL、ライブドアの再生に携わる。2010年弁護士開業。14年に独立し、青山東京法律事務所を開設。 近著は『2040年 「仕事とキャリア」年表』(三笠書房)。

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