「出勤を再開する人」を増やす日本株式会社の闇 メンバーシップ型雇用が生み出す弊害

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運よく転職先が見つかっても、新しい会社もメンバーシップ型システムででき上がっているので、社内人脈がない、上司の気持ちも忖度できない外部の人間は、組織のボトムからスタートしなければならなくなる。

せっかく希望に燃えて転職したのに、転職先の会社では“よそ者”として扱われ、給与だって、せいぜい年功序列の給与体系の該当年次のところにはめ込まれるだけ。給与が上がるどころか、減る場合も多くなる。

メンバーシップ型からジョブ型への転換の難しさ

これがメンバーシップ型雇用の実態である。つまり、就職時点からロイヤルティ重視の採用が行われ、入社してからもロイヤルティの高さを判断するためにやっているかのような転勤・異動が行われる。

今の会社の上層部にいる社長・副社長・専務も、このシステムの中を巧みな遊泳術で泳ぎ切り、役員という向こう岸にたどり着いた人たちだ。彼らの心には、部下をロイヤルティの高さで判断する習慣が染みついており、特定分野で高いスキルを持った人間を評価しようという気持ちはない。

「明日からジョブ型雇用に転換しましょう」というのは簡単だが、おそらく大方の会社では、ただのお題目に終わってしまう。

ジョブ型雇用にするとなれば、まずは各ジョブについて欧米型のジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を作ることになる。ところが、会社の人事部では、そのジョブで何が期待されているか、どういうスキルが必要とされているかをちゃんと考えたこともないので、うまく定義できない。

メンバーシップ型の雇用では、スキルのない前任者からスキルのない後任者への引き継ぎが綿々と行われてきているので、その仕事のやり方はやる人次第。あるジョブについて、カチッと固まった仕事のやり方があるものではないのである。

また、ジョブ型といって、そのジョブにふさわしいスキルを持った人を中途採用したとしても、採用された人は会社のやり方と衝突し、能力を十分に発揮することができなくなる。

例えば、外部から公認会計士のAさんを採用して、経理の仕事をやらせたと仮定しよう。彼が売れる可能性のない在庫商品を発見すれば、その償却を提案するはずだ。だが、そんなことをしたら、今期の会社の利益は減ってしまう。

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