「コロナ後の日本経済」見極めに欠かせない視点 大和総研・熊谷氏に今後の見通しを聞いた

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――コロナ後は経済や企業経営のみならず、経済政策の発想や手法も変わるのでしょうか。

基本的な考え方はそれほど決定的には変わらない気がする。ただ、コロナで日本の(経済政策の)足らざるところはたくさん見えてきた。国民の所得をリアルタイムで把握し、社会保障と税が情報として連動し、一体的な政策が行えるようなインフラをきちんと整備すべきだった。

これからは財政政策と金融政策の融合という問題も出てくる。中央銀行が事実上、財政赤字を補填し、いずれハイパーインフレなどを招く危険性がある。本来、民主主義の原理原則からいうと、選挙で選ばれているわけでもない中央銀行が民間の資源配分を決めるのはおかしい。財政政策と金融政策の境界線はどこなのか。それをしっかり特定しておかないと、今後非常に大きな問題になってくる。

財政破綻は「悪魔の証明」に近い

――振り返ると、ITバブルの崩壊からリーマンショック、そしてコロナ危機と、ほぼ10年ごとに大きな危機が発生しています。本来あるべき金融政策、財政政策の姿に本当に戻れるのでしょうか。

たしかに、今の時点で財政再建は望みがたい。いつ財政破綻するかという議論はある種の神学論争だ。社会科学は実験ができず、これは一種の悪魔の証明になる。しかし、証明できないからといって、財政破綻のリスクを冒していいということにはならない。

OECD諸国の1人当たりGDP成長率と公的債務残高対GDP比の関係をみると、(経済成長に)最適な債務水準はGDP比で103%くらいだ。これを超えると、将来不安が出て、消費が落ちるなどのマイナス影響が出てくる。

社会保障支出と国民負担率の関係を見ても、日本は「中福祉低負担」と言われていたが、このままいくと「高福祉低負担」の国になる。受益と負担のバランスがとれなくなり、子や孫の世代につけを回していく形になる。

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横軸に政府債務残高の名目GDP比、縦軸に長短スプレッド(長期金利と短期金利の差)をとると、日本はOECD諸国の傾向線から完全に外れている。なぜ、日本がこのような異常値になるかというと、国債を日銀がほとんど買っているから。経常収支が黒字で、外国人があまり国債を保有していないので、日本人が日本政府を信頼する限りにおいては、すぐに国債暴落にならない。

今までの日本の経済・金融環境は、金余りで、経常収支が黒字なので、円高デフレとなり、低金利環境が続いていた。低金利ゆえに財政赤字に歯止めがかかり、ISバランスから経常黒字が続いていた。一種の「ゆで蛙構造」だったが、それが将来は、貯蓄が取り崩されて資金不足になり、経常収支の黒字が減少し、円安やインフレが起き、長期金利が上昇し、財政赤字が拡大する可能性がある。

――これは経済にはよい均衡と悪い均衡があるという、一種の複数均衡ですね。何がきっかけになって、現在の均衡から将来の、悪い均衡へジャンプするのでしょうか。

やはり経常収支の悪化だ。1930年代のイギリスや1970年代のアメリカのように、経常黒字が大きく減少したり、赤字に転落すると、長短金利のスプレッドが大きく開き、国債が売り込まれる。こうした事態を視野に入れ、先手を打って財政規律を守っておかなければならない。

日本の場合、おそらく経常赤字にまでは至らないだろうが、黒字が大幅に減少すると、すべてが連動しているので、日本人が日本政府を信頼していればよいという状況が大きく変わる。

マーケットの信頼は一瞬で崩れる。それがいつ崩れるのかわからないが、未来永劫続くものではないことは確かだ。なるべく先回りをしておき、市場が大きく叛乱するのを事前に押さえ込むことが重要だ。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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