「コロナ後の日本経済」見極めに欠かせない視点 大和総研・熊谷氏に今後の見通しを聞いた

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――過去の経済危機の例をみると、経済ショック後に成長トレンドは下方に屈曲することが多いようです。

今回も、潜在成長率はたぶんそういうことになると思う。前述の②長期化シナリオでは、2020年度の実質成長率はマイナス9.4%、③はマイナス16.3%で、金融危機が起きると、(その差である)6.9%ポイントほど成長率が落ちる計算だ。

これはかなりの落ち幅で、過剰債務や過剰設備を抱えた新興国、ブラジルやロシア、トルコ、南アフリカなどが厳しい。とくに、ブラジルやトルコにはスペインの金融機関が相当貸し込んでいて、中南米などからスペインに飛び火し、欧州の金融危機に波及するリスクがある。

(経済が長期停滞に陥らないようにするには)日本も含め、どれだけポストコロナ社会に適合する経済・社会システムを作れるかどうかで大きく変わってくる。新たな仕組みが作れれば、そこから技術革新が起きたり、労働生産性が上がるかもしれない。

ただ、そこにも格差が出て、例えば、お金がある人たちだけがリアルな買い物やリアルな旅行ができ、ほかの人たちはみんなバーチャルで済ませる。そういう世界がおそらくやってくる。

コロナでは外需も内需も総崩れ

――リーマンショックのような金融危機型の経済ショックだと、経済政策の処方箋は比較的はっきりしていました。しかし、今回の危機ではどのような経済政策が有効なのか、よくわかりません。

リーマン時は、景気悪化のスピードがゆっくりしていた。しかし、今回はスピードが速く、運輸や観光、外食産業は瞬時に悪化した。リーマン時に悪化したのは輸出と設備投資を中心とした企業部門だったが、今回は外出自粛で消費が落ち込み、海外経済の悪化によって輸出も直撃した。外需も内需も、企業部門も家計部門も総崩れだったのが今回だ。

くまがい・みつまる/1989年東京大学法学部卒業後、日本興業銀行入行。同行調査部などを経て、2007年大和総研入社。2010年同社チーフエコノミスト。2020年より大和総研専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト(撮影:今井康一)

かろうじて金融システムがそれほどいたんでいないのがいい点だが、政策対応の余地が少なくなっている点が問題だ。コロナ危機はマクロ経済政策が効きにくいタイプの不況だ。それに加えて、リーマン後の大盤振る舞いの経済政策によって、各国の財政状況は軒並み悪くなっている。金融政策もアメリカの金利はゼロ近くになっており、政策の発動余地が残されていない。

今では随分と変化しているが、日本でも感染症の専門家だけが入り、政策を提言していた。そうすると、とにかく経済を止めろという話になり、そうなると感染症の死者は減っても、経済苦による死者は増えることになる。感染症の死者と経済苦による死者がトータルでみたときに、どうすれば最小化できるのか。そういう発想が希薄だった。

日本社会は同調圧力が強く、(補正予算のように)対症療法の痛み止めのような経済政策ばかりだ。誰も反対しない政策だが、そればかりやっていたら金は湯水のようにかかり、いずれ財政破綻のリスクが出てくる。

――1人10万円の給付金を全国民に配ることになりました。

べき論でいうと、所得制限をつけて、かつ迅速に給付するのがいいが、そこはスピードとのトレードオフになる。(当初の給付案として出た)制限をつけて30万円を給付するのは、対象が狭すぎる。本来いちばんよかったのは、所得でいうと800万円くらいまでを境に給付に制限をかけることだった。今回は緊急避難的にスピードを重視した。その点では致し方ない。

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