SUVブームの背景にある「ドレス効果」とは何か 顧客は「本格派」のイメージで買っている

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SUVのドレス効果を検証すると、重要なポイントは大きく2つあるように思える。

ひとつは、いわゆる「オラオラ系」の面構えだ。日本でオラオラ顔といえば、「アルファード」「ヴェルファイア」に代表されるが、本来こうしたトレンドは中国で強い。

2000年代後半、日系メーカーの中国のデザインセンターに取材した際、「フロントグリルが大きいと、大きな口からたくさんの空気を吸う大排気量のエンジンをイメージし、それが運転者の優越感につながる」という市場分析を聞いたことがある。オラオラ顔は、ボディサイズが大きく、タイヤが4隅にずっしりと収まるSUVに似合う。

もうひとつは、「本格派の走り」というドレス効果だ。

ランドクルーザーやGクラスが持つ“本格派”のイメージ

“走り”というと、速さがその象徴とされてきたが、それを体感できる場は、サーキットや一部に速度無制限区間があるドイツのアウトバーンなどに限られる。

一方で、「さまざまな路面状況で走れる」という4輪駆動車ならではの“走り”がある。そうした“本格派4駆”の代表例がトヨタ「ランドクルーザー」、メルセデス・ベンツ「Gクラス」、ランドローバー「ディフェンダー」、ジープ「ラングラー」、そしてスズキ「ジムニー」だ。

6月18日に国内初披露された「ディフェンダー」の市販モデル。アンバサダーの女子プロゴルファーの原英莉花選手と(写真:ジャガー・ランドローバー・ジャパン)

1980年代のパジェロブームにも通じる本格派4駆がドレス効果を生み、オフロード走行はほとんどせず、都心の自宅周辺の買い物に使うだけでも「本格派の本物に乗っている」という満足感を得ているユーザーが多い。

本格派4駆というドレス効果は、例えばRAV4のように、本格派4駆のタフなイメージを持つ前輪駆動車を購入して満足するというドレス効果も生む。

今、自動車メーカーには、CASE(コネクティビティ、自動運転、シェアリングなどの新サービス、電動化)といった新世代技術への対応が急がれている。一方で、自動車メーカーと自動車ディーラーにとっては、高めの価格帯で販売台数が稼げるSUVが、CASEへの直接的な関係性がさほど強くなくとも、経営上でのイチオシとなる。

昨今のSUVブームを振り返りながら、クルマとはファッションの一部なのだと、改めて思う。

最後に、本稿はあくまでもSUVによるドレス効果を考えることを主題としており、あおり運転との直接的なつながりを検証するものではないことをお断りしておきたい。

桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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