障害者福祉施設が「解錠サービス」を始めた訳 鍵を開けることが利用者たちの達成感になる

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「楠原さんによると」と書いたのは、実際の解錠を見ることができなかったからだ。本当であれば名人の1人、Aさんに作業の様子を見せてもらう予定だったのだが、約束の時間の前にグループホームに帰ってしまっていた。名人は気まぐれである。

かわりに、Bさんにお願いしたが「このタイプ(4桁)は開けない」とお断りされた。名人はこだわりも強いのだ。

(写真左)相談支援員の楠原公代さん(写真右)B型作業の時間割。平日午前9時〜午後3時半のうち、休憩を入れながら約3時間行われる(写真:弁護士ドットコム編集部)

鍵を開ける作業は2015年ころから始まった。作業所が譲り受けたロッカーに取り付けられていたダイヤルキーを、1人の利用者が見事に開けたのだ。

「彼が笑ったところを見たことなかったのに、手を叩くはヨダレを流すは、すごいはしゃぎよう。私たちも『そんなにうれしかったの?』と驚いて、それからもっと鍵を開けてもらうことにしました」(楠原さん)

職員らが自宅から持ってきたダイヤルキーを、名人たちは持ち込まれるそばからすべて解錠し尽くしてしまった。

依頼者から送られてきた4桁ダイヤルキー付きキーケース(写真:弁護士ドットコム編集部)

「今度は作業所の外に『ダイヤルキー募集。開けます』の張り紙をして、鍵を集めました。よく集まるのは自転車の鍵ですね。不動産屋さんもよく来られます。鍵を入れるキーケースの番号がわからなくなっちゃうそうです」

「ジモティー」に掲載したのはだいたい1年前。記者は直接持ち込んだが、ジモティー経由の依頼者のほとんどが郵送してくるそうだ。4月までは1週間に2個のペースで開けていたという。

「正直諦めてる」と話していた依頼者が「すごいね。本当に開いたの?!」と喜ぶ顔も、利用者には報告している。

「鍵開け名人」の素顔

「名人」として活躍する利用者は、他の利用者と交わることが苦手で、黙々と作業をすることが得意だ。

取材前に帰ってしまったAさんは、精神障害を持つ50代の男性。母親から「おまえなんか望まずに妊娠したんだ」と罵声を浴びせられながら育ったこともあり、統合失調症をわずらっている。近くに人がいると、悪口を言われている幻覚や幻聴を見聞きしてしまうそうだ。

「Aさんはほかの作業所からうちに来て初めて『いい意味でも視野が狭くなる。何も聞こえずに一心不乱になれる』と話していました。鍵を開けている間は、苦しいことを考えなくて済むようです」

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