コロナ「院内感染」現役看護師が味わった苦しみ 対策のない医療現場で命を懸けながら働いた

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家族には電話で、「コロナの濃厚接触で院内スタッフが減り、感染拡大を防ぐために、濃厚接触や感染兆候がない患者さんから順次退院してもらう趣旨」を伝えた。水木さんはその日夜勤だったが、その後に家族から問い合わせの電話が殺到。通常の業務に支障が出るくらい、対応に追われた。

家族からは怒りの声が多かった。もしかしたらドクターに言いにくいことも看護師なら言いやすかったのかもしれない。「スタッフがしっかりしていないから感染拡大したのではないか!」という意見もあれば、「退院後にコロナが見つかったらどうするのか、責任がとれるのか!」「この人がもし感染していたら、私たちにも感染しろということなんですか?」など……。

水木さんとしては看護婦長から言われたことしか伝えられないため、話は堂々巡りし、延々と続くことも。また、「今退院されても困る。子どももいるし、面倒が見られない」という人もいた。

もともと老人施設に入所していて、退院後もそこに行くことになっていた人もいた。しかし施設に連絡を入れると当然のように「クラスターが落ち着かないと、こちらも受け入れられない」と拒否をされた。

コロナ患者の退院にも手を取られた

患者の退院が決まったら決まったで、スタッフは業務に追われ走り回った。

数名が一気に退院することが多く、通常業務のほか、朝から退院準備に追われる。いつもは家族に病室まで迎えにきてもらうのだが、家族が院内に入れないため、看護師が患者さんの荷物を全部まとめて、外で待つ家族に渡す。退院手続きのほか、退院後の受診や薬の処方の説明なども一人ひとり対応した。

なかなか手が回らなかったのが認知症患者だ。認知症患者は記憶時間が短いことも多く、室内にいるように伝えても部屋から出てきてしまう。大声で看護師を呼び続けることもあり、普段あまり使いたくない抑制具(ベッドから起き上がれないようにする道具など)を使うこともあった。睡眠導入剤、抗精神薬を使うことも増えてしまった。人が足りないことで、自分のやりたくない看護をしなくてはならなくなった。

地域に根差した昔からの中小規模の病院では、感染症に対する設備も十分ではなく、なかなか対策が難しいことが多い。

感染対策をする場合、本来は感染者の部屋の空気が廊下などに漏れないように、換気に使用する排気ダクトにも注意し、外部よりも室内を陰圧(空気から感染するような細菌などが外部に漏れないように、気圧を低くする)する。

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