STAP騒動で揺れる日本の科学振興策

「直属の部下ではない」――笹井氏が話したこと

自身の責任が限定的であることを強調する笹井氏

笹井氏も、「シニア共著者として正確を旨とする科学にはあってはならないことで慙愧の念に堪えない」「(論文の)文章全体を俯瞰する立場であり、責任は重大」としながらも、「論文のアドバイザーを依頼はされたが、(当時は)若山研究室の客員研究員であり、それを飛び越えてノートを持ってこいとはいえない」と自身の責任が限定的であることを強調している。「(2013年3月以降、小保方氏は)PI(研究室主宰者、大学なら准教授相当)であり、直属の部下でもないのに、ノートを見せろというようなぶしつけな依頼は難しい」。

笹井氏が論文に参画したのは2012年12月下旬。その時点ですでにネイチャー誌に最初の投稿(2012年春)がなされ、データ類はすべて図表化されていた。他のデータとの整合性も高かったため、生データの確認は困難だったという。笹井氏が受けたのは、あくまで再投稿のために図表と論理の再整理をし、文章の改良、書き直しなど、仕上げ面での協力だった。その依頼は竹市雅俊CDBセンター長からなされたという。

理研の野依良治理事長のいう「未熟な研究者」が引き起こした研究不正は、国会でも問題とされ、「30代の研究者は未熟」と、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長が答弁した。だが、本当にそうだろうか。科学系のノーベル賞を受賞した日本人科学者が賞の対象となった研究成果をあげたのは、島津製作所の田中耕一氏の28歳を筆頭に、ほとんどが30代。リーダーとしては未熟な面もあるだろうが、研究者としてまで未熟であるわけではない。理研はこれまでにも30歳前後の若手を積極的に登用してきた。成果を上げて他の研究機関に送りだすことも増えている。十把一絡げに「30代は未熟」で結論付けるのではなく、小保方氏特有の問題が大きいと考えるべきだろう。

小保方氏の問題は、日本の科学振興策にも暗い影を落とそうとしている。理研の予算854億円(2013年度)のうち、CDBへの配分は29億円と比較的多い方だが、世界的な水準で見れば多くはない。小保方氏のようなユニットリーダー(課長または部長級)の年収は800万円台、理事長でも2000万円程度といわれる。業種にもよるが、せいぜい一般の大手企業と同等水準だ。苦労して博士号を取り、世界水準の研究を行う研究機関として、この待遇は決していいとは言えない。

2010年に行われた第3者機関からのレビューでも、センター長や副センター長などトップの海外からの招聘と、併せて国際水準の給与体系を考えるべきとの指摘を受けている。野依理事長が中心となって目指してきた、特定国立研究開発法人への指定も、こういった、研究水準の向上のための改革の一環だ。しかし、特定国立研究法人への指定は、STAP騒動によって延期された。同時に指定を受けるはずだった産総研まで巻き添えを食う形となっているが、一人の「未熟な研究者」の不正のために、科学技術立国という国策に遅滞があっていいのかという疑問は残る。

「不正は許さず失敗は許容」が必要

とはいえ、甘えは許されない。国費を使った研究である以上、世間が納得いく形で再発防止策を作る必要がある。理研自身も研究不正再発防止のための第3者委員会を設置し改革の検討を始めているし、文科省では研究機関の組織としての管理責任の明確化や事前防止の取り組み推進などを中心に2008年に施行された研究不正に対するガイドラインの見直しを行っているところだ。ただ、あまりに締め付けが厳しくして、研究者の自由な発想や議論を押さえつけるようなものにならないように配慮する必要はある。科学者はそもそも独立意識が高く、押さえつけられれば頭脳の海外流出を招きかねない。

一方で、はっきりとした目的を持つ応用研究や技術開発と異なり、基礎研究には時間がかかる上に、必ず正解があるわけではない。真理につながらない間違った仮説に基づいて研究を行うこともある。しかし、説明責任を果たした上での「失敗」は、許容しなければならない。それが基礎研究というものだ。匙加減は難しいものの、性急な議論で大幅に予算を削ったり、研究者を委縮させたりするようなことは防がなければならない。

(撮影:風間仁一郎)

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