JR東海リニア延期も?静岡「水問題」迷走の構図 解決の道筋は見えそうだが、議論はゆっくり

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現在の議論の中心はトンネル湧水の戻し方や地下水への影響といった部分である。会議のペースはゆっくりだが、難波副知事は、「JR東海と県の間で意見交換は進んでおり見解が違うだけ。結論が出るまでにそれほど時間はかからないのではないか」と話す。

しかし、難題はほかにもある。有識者会議は生態系への影響についても議論を行うことになっている。県は生態系への影響に関してJR東海の提供したデータが不足していると主張しており、JR東海と県の間での議論も進んでいない。つまり、生態系への影響に関する有識者会議の議論は、結論が出るまでにかなりの時間を要する可能性があるのだ。

静岡市で記者会見する国土交通省の水嶋智鉄道局長(記者撮影)

6月13日、水嶋局長は静岡工区の作業現場を視察した後に静岡市内で会見し、JR東海と静岡県の主張が対立していることについて、「観念的、抽象的な言葉のやりとりに陥ることなく、事実に即した具体的・建設的な議論が行われることが重要だ」と語った。

一例として水嶋局長はJR東海が6月中に実施したいとする工事を挙げた。「JRは県に望む事柄を個別具体的に明示し、県側がそれらについて具体的な判断を示すべきだ」という。そして、県が判断を行う場合、「どのような制度の枠組みや法的根拠によって行われるものなのかを明確に示す必要がある」とした。たとえば、ヤード整備の前に作業道の整備が必要という県の主張は制度や法律に基づくものなのかを明らかにせよというわけだ。

抽象的に語らず、具体的に明示することは必要だ。県と国交省の間では、有識者会議の「全面公開」について対立がある。国交省は会議の模様を報道陣が傍聴し、後日議事録を公開することで全面公開だとするが、県は地域住民や国民が報道と議事録でしか会議の議論の状況を知ることができないのは全面公開ではないと反論する。事前に全面公開の定義を両者間で共有しておけば、対立は回避できたはずだ。

沿線では開業に向けた準備が…

沿線各地では2027年に照準を合わせた再開発計画が進められている。

名古屋市は3月に、2027年のリニア開業に合わせ再整備する名古屋駅東西の駅前広場の完成イメージ図を公開した。広々とした空間を確保することで、世界から人が集まるコスプレサミットなどのイベントを想定しているという。

トヨタ自動車と京浜急行電鉄は共同で品川駅前に2027年までに高層ビルを建設すると4月に発表した。トヨタは名古屋駅前にもオフィスがある。リニア開業後の東京─名古屋間の行き来は現在よりも活発になりそうだ。

リニア中央新幹線の神奈川県駅(仮称)予定地周辺(撮影:尾形文繁)

岐阜県は新駅を中心とした東西南北方向に歴史街道を整備する観光政策や、中央自動車道などと組み合わせて企業誘致を推進する構想を持つ。神奈川県駅(仮称)ができる相模原市も新駅を軸とした再開発を構想する。リニアの開業時期が遅れると、こうした各地の再開発計画はリニアが開業するまで真価を発揮できないばかりか、開発負担も重くのしかかる。

JR東海と静岡県の間でもつれた綻びは少しずつ解きほぐれされようとしているが、その歩みはゆっくりだ。6月中にヤード整備に着手できたとしても、有識者会議の議論が進まず、トンネル掘削の開始が遅れては元も子もない。はたして当初の計画どおり2027年に開業できるのか。多くの関係者がかたずをのんで見守っている。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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