JR東海リニア延期も?静岡「水問題」迷走の構図 解決の道筋は見えそうだが、議論はゆっくり
JR東海は「南アルプス本体の先進坑、本坑の工事に取り掛かるまでには3年あまりの期間がある」としており、有識者会議の議論を踏まえて、施工計画に基づく環境保全計画を作成し、県の意見を踏まえて工事に着手したいとする。6月中に着工できて、有識者会議の議論が滞りなく進めば、今から3年あまり後、つまり2023年の後半くらいにトンネル工事に着手でき、2027年の開業にぎりぎり間に合うという算段だ。
では、肝心な有識者会議の議論はどのように進んでいるのだろうか。4月27日の第1回会議の冒頭、国土交通省の水嶋智鉄道局長は、「いたずらに時間をかけるわけにはいかない」と述べ、早期に決着させたい意向をにじませた。しかし、その後に金子社長が「環境保全を軽んじるつもりはまったくない」としたものの、「あまりに高い要求を課して、それが達成できなければ中央新幹線の着工も認められないというのは、法律の趣旨に反する扱いになるのではないか」と発言した。
この会議の模様をウェブで見ていた静岡県の難波喬司副知事は、金子社長の発言に対して、「我々は決して過大な要求をしているわけではない」と猛反発。「JR東海は県の環境影響評価事務の適正性を疑問視している」と国交省に抗議文を送る事態となった。会議は初日から荒れ模様となった。
難波副知事は国交省出身。世界初の人工島と桟橋のハイブリッド滑走路である羽田空港D滑走路の建設事業では、事業者側の立場から環境影響評価の策定に携わったこともある。
「私は静岡県が要求する内容がどのレベルにあるかはわかっている。JR東海がちゃんとやればそんなに時間はかからないはずだ」(難波副知事)。
「一気に解決できるとは考えていない」
第1回の会議に続き、5月15日に第2回、6月2日に第3回の会議が開催された。3回の議論を通じて、有識者会議の座長を務める福岡捷二・中央大学研究開発機構教授は「何が問題点なのかだんだん見えてきて、ようやく本格的な議論ができるようになってきた」と話す。
今までのJR東海の説明資料は「専門家にもわかりにくい」(福岡座長)というほど内容が難解だったとして、今後はJR東海から必要なデータを得て議論を重ね、JR東海に適切な提案を行っていきたいという。
ただ、そこまでの道のりは結構長そうだ。「これまでJR東海と静岡県が数年かけて協議しても解決できなかったことを有識者会議で一気に解決できるとは考えていない」と福岡座長は話す。
現在の有識者会議のやり方は、JR東海が提出した資料を協議して、足りない情報を次回の会議でJR東海から提出してもらい、それをもとに協議するという繰り返しである。委員の要求に応じてJR東海が必要なデータをその場で出すような体制にすれば、会議を何度も重ねることなく短期間で結論が出せるようにも思えるが、福岡座長は「議論して、資料を読んで、議論するというプロセスは当たり前のこと」として時間をかけて議論することの必要性を説いた。水嶋局長も「乱暴に議論を進めていいわけではない。委員が納得が行くまで議論を尽くすことが必要だ」と話す。
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