ファーウェイ禁輸で台湾TSMCが迎える正念場 米国に新工場建設で禁輸影響を免れるのか

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洪氏の見解を裏付けるような報道がある。ニューヨーク・タイムズが、関係筋の話として、TSMCのアメリカ工場建設は対米交渉の重要なカードになる可能性があると報じたのだ。つまり、TSMCはアメリカ工場を建設・稼働させることで、自社の製品をファーウェイ禁輸措置の対象から外すようアメリカと交渉しているのではないかということだ。

「交渉カード説」が浮上した背景にあるのが、TSMCがアメリカ工場から得るメリットだ。新工場の建設地であるアリゾナ州は電気料金が安く、人材も豊富だ。同州にはインテルなど半導体工場が複数あり、高いレベルの技術を持つエンジニアのヘッドハンティングが可能なのだという。

アメリカ工場は理想の立地なのか

しかし、問題は人件費である。TSMC新工場は24時間体制で稼働する予定だ。当然、稼働には人件費が伴う。アリゾナ州はアメリカ国内では比較的人件費が安いが、ベトナムを始めとする東南アジア諸国にはかなわない。「(同じくアリゾナに半導体工場を構える)インテルはコストカットのために、工場の海外移転を検討しているくらいだ」とシティ証券でアジア担当の主席半導体アナリストを以前務めていた陸行之氏は指摘する。

また、台湾の投資顧問会社も「新工場で売上総利益率50%を維持するのは簡単なことではない、1つの挑戦だ」と指摘している。実際、TSMCの劉会長は4月の会見で、アメリカ工場建設のためにコストが壁になっていること、コスト削減の努力を行っていることを明らかにした。

アメリカで半導体工場を運営するのはそれほど難しいものなのだろうか。関係者によると、TSMCのアメリカ子会社・WaferTech社からの納品は、TSMCの他の工場より時間がかかりがちだという。2020年第1四半期の財務諸表を見ると、WaferTech社の収益はわずか3億5300万台湾ドル(約12.8億円)。これはTSMC南京工場の12%にも及ばないという。稼働中のアメリカ工場の状況から見ると、アメリカがTSMCにとって工場建設の理想の地とは言えるかどうか、疑問が残る。

台湾の政府関係者によると、工場建設のために、TSMCとアメリカ政府は土地や税制措置、半導体部品製造に不可欠な水と電力についても議論した。だが、これらの優遇措置を受けたとしても、TSMCがアメリカ工場を建設する経済的メリットは大きくないという。

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