コロナ後が見通せない人に知ってほしい全体像 激変する力学、債務・為替管理の国際協調カギに

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以上が対外的な国際協調体制での話とすれば、コロナ後の各国政府は内政的な課題にも向き合わざるを得なくなりそうだ。

1つの背景として、政府・中央銀行が財政支援のために金融大緩和を続けることで、コロナ後の世界では従来に増して株価などの資産バブルが起きやすくなることが挙げられる。金融資産を持つ者・持たない者といった間での格差問題を、政治は意識せざるを得ない。

とくに米欧ではこれまで、株価とリンクした経営者報酬の制度によって、「金融緩和→資産価格上昇→格差拡大」という流れが定着し、批判が高まっていた。株価上昇による経営者報酬拡大を目的として、借金による自己株購入や配当を増やしていた米国有力企業は、コロナ禍の金融暴落により相次いで経営危機に転落。一部では中銀の資金供給拡大による「救済」も進んでいる。こうした事態が顕在化することで、経営者報酬のあり方を見直す論議が本格化するであろうことは容易に想像できる。

他方、コロナ禍では低所得者ほど健康・経済被害が大きいことがメディアを通じて可視化されたことも見逃せない。とくに国民皆医療保険のない米国では、当初、コロナ感染が疑われても病院に行けない人が多く、感染拡大が進む一因になったとの指摘がある。今年11月の大統領選挙の行方にもよるが、米国では医療などの社会保障制度が強化される可能性はあるだろう。こうした変化は、日本にもなにがしかの影響を与えそうだ。

世界がブロック化する危機

以上説明してきたようなコロナ後の力学の中で、ややベクトルが異なるものがある。米中対立の行方だ。

今回のパンデミック(世界的流行)の責任を中国に帰すトランプ大統領を筆頭に、米国民の反中姿勢は強まっている。米中両国の経済報復やデカップリング(切り離し)の動きは加速しており、コロナ後の国際協調体制にどんな影響を与えるかが最大の焦点になってくる。

米中の対立は、軍事力やハイテクに加えて、ドル対人民元という通貨の覇権争いでもある。コロナ後に本格化するとみられる通貨や公的債務管理での国際協調が「西側」「東側」に分かれた形で進むことになれば、懸念されてきた世界のブロック化は決定的な流れになりかねない。仮にそうなれば、米中冷戦はエスカレートし、地理的、経済的に中国と近い日本にとって政治、経済の両面で極めて大きな選択を迫られることになるだろう。

『週刊東洋経済』6月13日号(6月8日発売)の特集は「コロナ経済入門」です。
野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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