コロナ後が見通せない人に知ってほしい全体像 激変する力学、債務・為替管理の国際協調カギに

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ただ、主要国政府にとって好都合なことも2つある。1つは、今回の財政悪化が全世界共通であることだ。もし1つの国だけで公的債務残高が急膨張すれば、その国の通貨は売り込まれ、結果、金融政策が引き締め方向になることによって、経済や財政への一段の打撃が生じかねない。だが今回は、どの国でも財政悪化が起きるため、マネーにとっての行き場は少なく、主要国の通貨下落リスクは低減される(ただし、一部の新興国では、このリスクは大きい)。

コロナ後も低インフレが続きそうな理由

もう1つは、コロナ後の景気過熱やインフレ高進の可能性が低いことだ。そのため、中銀が金融引き締め(金利引き上げ)に動かざるを得なくなる局面は起きにくく、財政従属的な金融緩和政策を続けやすいとみることができる。

第2次大戦後の米国では、戦費調達で膨張した国債の借り換え発行を円滑化するため、このときも中銀は財政従属的な低金利政策を続けた。だが、戦争で生産設備が破壊された欧州での復興需要、戦時下に米国内で抑えられた繰越需要(ペントアップディマンド)の発現などにより、強い経済成長とインフレ圧力が生じ、途中で中銀は財務省と協調した低金利・国債価格支持政策を離脱せざるを得なくなった。

幸運にも、この際は世界経済の高度成長によって米国の経済規模(GDP)自体も大きく拡大したため、税収が増えて財政が安定化する一方、公的債務残高も対GDP比で縮小していった。コロナ後も、先進国などの経済が高成長となってインフレ気味になるのであれば問題は少ないが、経済成長とのバランスを欠いた形でインフレが高進するとなると、大きなリスク要因になってくる。実際にはどうなるのか。

結論としては、先述のようにコロナ後はその両方とも該当せず、低成長・低インフレが続くとみられる。今回のコロナ危機では、戦争時と違って生産設備は無傷であり、さらに接触削減によるデジタル・オンライン化の加速によって、有形資本(工業)から無形資本(知識、アイデア)へ、経済の比重はますますシフトしていきそうだ。

そのため、巨額に及ぶ生産設備などの資金需要は、特に先進国では盛り上がりにくい。結果として、民間の資金需要が大きく拡大して金利上昇圧力となる可能性は低いだろう。

また、コロナ下の自粛生活によって消費を控える行動が長期化すると、それが若年層を中心に定着していくとの見方もある。雇用形態が多様化する中で、完全雇用下でも賃金上昇が鈍いという状況はコロナ後も続くとみられ、総じてインフレ圧力を殺ぐ方向に作用しそうだ。

これらは、経済成長の視点では望ましくないが、公的債務管理という面では「追い風」になりうる。これを利用しつつ、コロナ後は米欧日を中心とした金融政策の協同歩調がとられることになるだろう。

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