「〇〇美術館展」にたいした作品が来ないワケ 美術展の裏側はいったいどうなっているのか

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2019年春に国立新美術館で開催の「トルコ文化年2019 トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美」は日本経済新聞社とTBSテレビが主催であり、2019年秋の「ハプスブルク展」はTBSテレビと朝日新聞社が主催である。

同じ「主催」でも、先に会社名を書いてある方が主導権を握っている。だから「ハプスブルク展」はTBSテレビが中心である。読売新聞社は系列の日本テレビとよく組むが、同じような「〇〇美術館展」でも内容に工夫がある展覧会は読売新聞社、日本テレビの順に並んでいることがわかる。

たいした作品は来ない

海外の有名美術館の「引っ越し」のような「〇〇美術館展」。頼みもしないのに資金のあるマスコミが借りてきてくれるから、観客はわざわざ海外に行くこともなく、わずか1700円で世界の名品を見ることができる。税金が使われているわけでもないし、いいじゃないかと思われるかもしれない。だが実はそこには、いくつかの問題がある。

ルーブル美術館のモナ・リザの部屋は観光客でごった返している(筆者撮影)

まず第一に、たいした作品は来ない。レベルの高い作品は2、3点のみの場合が多い。海外の有名美術館には、例えばルーヴルの《モナ・リザ》のようにそれを目当てに多くの観光客が押し寄せる。だから本当の目玉作品は動かすわけにはいかない

名の知れた画家のあまり有名でない作品を遮二無二目玉にし、テーマを設定してそれ以外のよく知られていない同時期や同テーマの画家や彫刻家の作品を50点から80点ほど集めて「展覧会」にしているというわけだ。

『美術展の不都合な真実』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

大英博物館で言うと800万点が所蔵されており、大半は展示されずに倉庫にある。だから100点に満たない作品は何百回でも貸し出せる。

マスコミ、とくにテレビは収益を上げるために特別番組を組み、テレビスポットを打つ。一緒に組んだ新聞社でも一頁特集を数回組む。それらを見ていると、どうしても行きたい気分になってくる。ところが行ってみると長蛇の列。

だいたい1日に3000人入ると大きめの美術館でも「混んでいる」感じがするのだが、当たる展覧会の最終日近くの土日は1万人を押し込む。そうなると入場するのに1、2時間かかることはザラ。

先述したように、これでは人の頭を見に行くようなもので、とても落ち着いて作品を見ることはできない。新聞社は「文化催事」というが、およそ非文化的な光景がそこにはある。

古賀 太 日本大学芸術学部教授

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こが ふとし / Futoshi Koga

1961年福岡県生まれ。九州大学文学部卒業。国際交流基金で日本美術の海外展開、朝日新聞社で展覧会企画に携わる。2009年より日本大学芸術学部教授。専門は映画史、映像/アート・ビジネス。訳書に『魔術師メリエス』、共著に『戦時下の映画』などがある。
 

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