ドイツ鉄道優遇の「緊急支援」、民間他社が反発 オーストリアは元国鉄と民間を平等に支援

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Mofairの代表クリスチャン・シュレイヤー氏は、ドイツ鉄道が政府への高額な資金援助を求めるには、「なぜ資金が必要で、何のために資金を使用するべきかの完全な透明性が必要であるはずだ」と訴えている。

ドイツ鉄道の高速列車ICE。同社は政府へ支援を申し入れたが、列車本数の削減といった努力を怠っていると民間企業は反発。ドイツ鉄道は長距離列車約75%の運行を維持していた(筆者撮影)

ドイツ鉄道は、移動制限によって都市間需要がコロナ問題以前と比較して10~15%程度(85~90%減)にまで落ち込む中、高速列車ICEや都市間特急ICといった長距離輸送サービスの約75%を維持していた。シュレイヤー氏は「(政府の支援がない)民間企業は、事業を継続させるためにはすべての列車をいったん止めることが唯一の方法だった。しかし、ドイツ鉄道は約75%の列車の運行を維持し、しかも移動制限が出た後も割引運賃などの販売を行っていた。(需要に見合った)コスト削減へ向けた十分な努力を行っていない」と指摘している。

このコメントに対し、ドイツ鉄道は「(外出禁止という条件下においても移動が必要とされる)利用者のために、列車を完全に止めるわけにはいかない」と反論している。

ドイツ鉄道の言い分も理解できるが、公共交通機関として、不採算を承知でどこまでのサービスを維持するのか、その線引きは難しいところである。また、元国鉄とはいえ現在は民間企業であるドイツ鉄道へ支援するのであれば、同様にほかの民間企業へも何らかの支援を行わなければ、公平性を欠くことになる。

民間各社は危機を乗り切れるか

ちょうど昨年の今頃は、グレタ・トゥーンベリさんを筆頭に鉄道利用を呼びかける運動がヨーロッパ各地で展開され、新たな鉄道黄金時代を迎えたに等しい状況だった。その1年後にこのような世界情勢の変化が訪れようとは、誰にも想像できないことだった。

コロナ危機以降、民間オペレーターはどこも苦しい経営状況に陥っているが、チェコのレギオジェットは鉄道・バスともいち早く運行を再開させている(筆者撮影)

この危機を乗り越えた先には、それまで抑制されていた旅行需要が飛躍的に高まることは間違いなく、鉄道の利用客は再び増加することが予想される。そのとき、その場にあるべきはずの鉄道オペレーターが消滅していたとすれば、これほど悲劇的なことはない。

多くのオペレーターがこれまで安定した経営を行ってきたことを思えば、コロナ禍によって各社が破滅への道を進むのはあまりに忍びない。環境問題を考慮しても、民間オペレーターがこの危機を乗り越えられることを願ってやまない。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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