太田光が「テレビ受けする発言あえて避ける」訳 ネット世論とは一線画す「言論人」としての顔

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プロレスラーの木村花さんがネットでの誹謗中傷が原因で自ら命を絶ったとされる事件についても、太田は「何でも言っていい場所ってこの世界にないですからね」「言霊っていうのがあって最終的に自分に返ってくる」と主張する一方、彼女を中傷していた人たちが今度は「人を自殺に追い込んだ」と中傷されてしまうという状況があることにも注意を促した。

いずれも、一部の人からは「お前は悪者の味方をするのか」などと言われかねない、リスクのある発言である。だが、太田は世の中が一方的な見方に流されることに警戒心を持っている。

現実はそんなに単純なものではない。それぞれの人間に利害や都合やルールがある。器用に立ち回れない人や、立場の弱い人もいる。正義は正しいのかもしれないが、正義を振りかざすことが常に正しいとは限らない。太田はどこまでも「いや、そうとは言い切れないかもしれない」「あっちから見るとそういうふうには言えないかもしれない」などと多視点的な面倒臭い考え方を手放さない。

そんな、全くテレビ的ではない太田の発言がメディアを通じて多くの人に伝えられ、ときに評価もされているというのは、本当に奇跡的なことだ。

常に弱い立場の人に寄り添う太田のスタンスは「優しい」と形容されることも多い。ただ、そこにあるのは単なる優しさというよりも知的な「誠実さ」なのではないかと思う。例えば、他人を「ずるい」と言って責める人は、自分にもずるい一面があることを忘れている。自分にもずるい部分がある、などということを考えていたら、全力で他人をずるいと批判することができなくなるからだ。

太田光は「誠実な言論人」でもある

でも、太田は自分にも他人にも知的に誠実であることを何より優先する。だから、ときには罪を犯した人間にすら理解や共感を示すことがある。その上で、自分の考えを言葉を尽くして必死になって伝えようとする。世間一般で正解とされていることや正義とされていることを疑い、自分の頭で考えたことだけを話す。

ただ、太田のこのスタンスが世間ではこれがなかなか理解されない。例えば「とにかく安倍政権が悪い」などと、白黒はっきりした立場で何かを一方的に批判する方がわかりやすいし、そういう意見の方が多数の支持を集めるだろう。

しかし、太田はそういう道を選ばない。太田には『憲法九条を世界遺産に』という著書もあるため、太田をそういう路線の政治思想の持ち主だと誤解している人も多いが、その本の内容をはじめとして彼の政治的な主張をきちんと掘り下げてみると、そこまで一筋縄ではいかない考えを持っていることがわかる。彼は政治的な思想においても、多面的な見方をすることをやめない。

芸人としての太田の功績は言うまでもないが、個人的には言論人としての太田のこのような面はもっと評価されるべきではないかと思う。ネット上で毎日のように「正義」と「正義」が激しくぶつかり合い、不毛な争いが絶えない今だからこそ、時代錯誤に思えるほど知的誠実さを貫く太田の姿が輝いて見える。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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