「人の行く裏に道あり、花の山」ということで、投資は他人が気づいていない何かに気づくことと、その機会に対する投資実行が必要です。2008年に世界経済を震撼させたリーマンショック、いわゆるサブプライムローン危機ですが、米国住宅バブルが崩壊することや、その住宅ローンを組み入れた債券が破綻することを事前に予測しても、それだけではリターンを得られず、「バブル崩壊や市場の破綻が起こる」とリターンが上がる何かに投資することが必要になります。
何かの崩壊や下落が予測できても、投資方法がなければ投資になりません。リーマンショックの場合はバブル崩壊を予測した一部の人間が空売りやCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)によりリターンを上げており、これがその投資方法となります。
こうした予測と投資方法を「投資アイデア」と呼びます。簡単な例だと、少子高齢化のデータを見て、介護関連企業の株式に投資しよう、統計では新生児向けオムツを高齢者オムツ生産量が逆転した、高齢者向けオムツを生産する会社の株式投資がいいだろう、という思考プロセスが投資アイデアです。国防費のデータに増加傾向を見て「艦これ」を連想してはいけません。
どこにアービトラージがあるか?
質問者の方はPE/VCを志望されるということですが、数学ができることよりも、投資アイデアがどれだけあるかが重要です。筆者が面接でよく聞くのは、「リスク・リターンが歪んでいるためアービトラージ可能な投資アイデアを教えてください、モラルハザードは起こしていいですが、リーガルリスクは取らないでください、海外でも結構です」というものです。いかがでしょうか? 思いつきましたでしょうか?
古くは英国のパブチェーン、ちょっと前では破綻したゴルフ場など、投資や立て直しに手間がかかりそうで、誰も来ないところにはいい投資アイデアがあるものです。リスクの大きな部分を証券化などで第三者に早期に転嫁できるとなお可です。またこうした投資アイデアも誰かが成功してみんなが来ると投資対象の価格が高くなり、リターンは落ちていきます。
投資は安く買って高く売ると利益が出ます。高いか安いかは将来の投資対象のキャッシュフローを現在価値に引きなおして、その価格より安く買えると割安だと言えます。ここにおいてPEとVCでは世界観が異なります。PEは曲線的な安定したキャッシュフローをリスク見合いで割り引いて現在価値に引きなおすDCFな世界観の中で、買収時に多大な負債でレバレッジをかけ、キャッシュフローで負債を返済し、ストラクチャリングによってエクイティ価値を高めることを時間の経過とともに行います。
一方、VCの投資先のベンチャー企業は時間の経過とともにオプションが現実には生き残る/死ぬと二極に複数回分岐していき、モデルのうえでは将来キャッシュフローが不確実性を持つものとして確率的にとらえられます。VC投資は、キャッシュフローそのものの不確実性を考慮しないDCF的世界感には本質的にはなじみません。これは米国における、東海岸と西海岸のカルチャーの差、ヒップホップではなく金融の話ですが、投資銀行とベンチャーキャピタル、スーツとTシャツの違いとなって表出します。
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