検察庁法案、急きょ「今国会成立見送り」の理由 内閣支持率が急落、安倍首相「初めての挫折」

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政権幹部は「転んでもただでは起きない、したたかな発想だ」と苦笑する。「今回の国会審議で野党攻撃の標的となった武田良太・行政改革担当相、森雅子法相も、臨時国会前の内閣改造人事で交代させれば問題解決だ」(自民国対)との声ももれてくる。

首相も先週末までは強行突破路線だったとされる。5月15日にインターネットテレビ番組に出演した首相は、司会者から黒川氏の定年延長は法務省が提案したのかと水を向けられると、「まったくその通り。検察庁も含め、法務省が『こういう考え方でいきたい』という人事案を持って来た」と説明した。

さらに、官邸による人事介入説にも「それはありえない」と強い口調で否定。黒川氏が官邸寄りとする見方についても、「(負の)イメージをつくり上げている。まったく事実ではない」と力説した。その時点で安倍首相は「きちんと説明すれば、包囲網も突破できる」との判断だったとみられる。

読売新聞の報道で流れができる

しかし、週をまたいでもネットにおける反対論の拡散は止まらず、各メディアの世論調査結果が事前に首相サイドに伝わった段階で、対応を一変させたとされる。これまで政権擁護の姿勢が目立ってきた読売新聞だけが、18日朝刊で「検察庁法案見送り検討」と報じたのは「偶然ではない」(自民幹部)とみられている。他メディアも追随し、一気に流れができた。

安倍政権は2012年末の第2次政権発足以来、新安保法制や特定秘密保護法、カジノ法など、国民が反発する重要法案を数で成立させる強引な国会運営を続けてきたが、今回の「いったん撤退」は初めての事態だ。

次期衆院選は2021年10月までに必ず実施される一方、安倍首相(自民党総裁)の任期は同年9月末まで。今回の騒動をきっかけにネット上では「#次は必ず選挙に行こう!」とのハッシュタグも盛り上がっている。「もし、(検察庁法案の)採決強行となれば与党から多数の造反者が出て、首相の求心力もがた落ちした」(自民若手)との指摘もある。

「検察庁法改正案の強行採決が政権の致命傷になる」(閣僚経験者)との可能性も少なくなく、今回の撤退は「忖度政治の慣れの果てのみじめな帰結」(自民長老)との見方も広がっている。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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