マスク騒動で、世界で一気に知名度を上げたBYDだが、そもそも、なぜBYDはマスクメーカーに変貌したのか。1月下旬の春節期間に新型コロナの感染が爆発した中国では、2月の操業再開時に従業員のマスク着用が義務付けられた。中国の2018年のマスク生産量は約45億枚で、多くが輸出に回っており、1、2月にはあらゆるマスクが不足した。この頃は日本からも多くのマスクが中国に寄贈された。
従業員のマスクを確保しないと工場が再開できないため、一部の大企業はマスク生産を始めた。iPhoneの組み立て工場として知られている鴻海精密工業は従業員向けに、自動車メーカーの広州汽車は自社従業員のほか広州市の企業向けにマスクを作った。一方、BYDは医療用マスクの生産に乗り出した。
中国の報道によると、BYDの王伝福総裁は1月26日の幹部会議で「マスクが足りず、操業再開に支障が出る。2週間以内にマスクの生産体制を作った部署には総裁賞を贈る」と発言。この言葉で各部署が一気に動き、1カ月足らずで深圳市政府から製造承認を得て、生産ラインを100本整えたという。
1日の生産枚数が500万枚に達した3月には、同社のマスクは政府に買い取られ、イタリアや韓国などへ寄贈されるようになった。その後、孫正義氏ら海外からの注文が次々に舞い込み、4月時点で1日の生産能力は2000万枚に拡大した。
BYDの業績はEV市場失速で低迷している
BYDは中国EV業界のリーディング企業で、4月にはトヨタ自動車との合弁会社設立も発表したが、この数年は政府のEV購入への補助金削減の影響を受け、業績が低迷している。EV市場の失速とコロナ禍のダブルパンチで、同社の2020年1~3月期の純利益は、8割近く落ち込んだ。
マスクは緊急対策的に始めたものだったが、世界に新型コロナウイルスが広がる中で需要が急拡大し、BYDに投資するウォーレン・バフェット氏も同社のマスクをつけた写真を公開するなど、ブランド力向上に一役買っている。
BYDの2018年度の売上高は1300億5500万元(約2兆円)で、カリフォルニア州との契約10億ドル(約1072億円)は、年間売上高と比較しても小さくない。今や世界最大のマスクメーカーになったBYDが新型コロナ終息後もマスク生産を続けるのか、事業の位置づけは明らかになっていないが、ここまで順調だった同社のマスク事業にとって、カリフォルニア州とのトラブルは最初の試金石になりそうだ。
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