「月給が賞与と比べ異様に少ない人」は要注意 会社が「あなたの万一の保障」を削っている?

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開いた口がふさがらないといった表情のお客様に「給与体系が変更になったなど、会社から説明がありませんでしたか」と聞くと、「こうすると社会保険料が減って手取りが増えるからいいぞ、と書類に印鑑を押した記憶があります」と。

そのとおり、社会保険料の支払いが減るのですから、手取りは増えます。しかし社会保険料というのは、国民全体で万一に備える「保険」なのですから、支払いが少ない人には給付も少なくなります。毎月の給与額に比例する給付は傷病手当金だけではありません。出産手当金、育児休業手当、失業手当、将来の老齢厚生年金や遺族厚生年金、障害厚生年金などにも影響があります。

今回のような極端な給与体系の変更は、労働者にとっては不利益変更になるので、決して許されることではありません。しかし「手取りが増えるから」と会社から提案され、労働者が理解しないうちに労使合意がとられた形になり、万が一のセーフティーネットが侵害されるというケースは少なくないようです。

経営者のほうも、「社会保険料削減」という言葉に踊らされているのか、それによる社員への給付減少をよく理解せずにやっていることもあります。適切な社会保険料を支払うことの大切さはわかってはいても、社会保険料削減を提案する人たちの言葉はとても巧みなのでしょう。

目先の保険料負担を嫌うと、有事に痛手を被る

似たようなケースで、「給与額を極端に落とし、差額を業務委託費として受け取っている」という方もいました。これはもっと深刻です。なぜならば、前述のように賞与と合わせた年収に変動がなければ納税額は同じなのですが、業務委託費だと給与所得控除(会社員に認められたみなし経費)が使えないため、税金が高くなってしまうことが起こりうるからです。またその分は源泉徴収票の「年収」欄には記載されません。それがゆえに「住宅ローンが組めなかった」という方もいました。

万が一の保障のありがたみは、平時は実感しづらいかもしれません。しかし、万が一は起こりうるし、その際の経済的保障は、社会保険という仕組みに平時から参加していなければ受けられないのです。社会保険は、私たちが生活困窮しないようにと「防貧」のために設けられている制度ですから、目先の保険料負担が重いからという理由だけで、安易な判断をしてはいけないのです。

山中 伸枝 ファイナンシャルプランナー、FP相談ねっと代表

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やまなか のぶえ / Nobue Yamanaka

FP相談ねっと代表。一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事。アメリカ・オハイオ州立大学ビジネス学部卒業。「楽しい・分かりやすい・やる気になる」ビジネスパーソンのためのライフプラン相談、講演を数多く手掛ける。大手新聞社主催のiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISAセミナーの講師など登壇も多数。金融庁のサイトで、有識者コラムを連載。著書に『「なんとかなる」ではどうにもならない 定年後のお金の教科書』(インプレス)、『ど素人が始めるiDeCo(個人型確定拠出年金)の本』(翔泳社)、『100人以下の会社のためのiDeCo&企業型DC楽々活用法』(日本法令)ほか。公式サイト

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