乗客ゼロの旅客機が担う「知られざる重要任務」 平時でも、航空貨物の半分は旅客機が運ぶ

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旅客便の貨物需要は路線によっても大きく異なり、欧米や中国行きは旺盛な需要があるものの、リゾート路線などでは貨物需要は望めない。一般に欧米路線や中国便には、豪華なビジネスクラスが多い。それは出張需要に応えるためであるが、欧米への長距離便では、燃料もたくさん積まねばならず、旺盛な貨物需要にも応えたいので、エコノミークラスを多めにして定員を増やすことはできない。いっぽう、貨物需要の望めないリゾート路線では、旅客数を多くする必要がある。

旅客数の激減で経営が厳しいLCCが、貨物を増やして収入を補うことができるかというと、そうもいかない。大手の航空会社系列のLCCであれは、大手だけでは運びきれない貨物をLCCに分担させるということも可能であろう。しかし、多くのLCCが利用している機材はエアバスのA320やボーイング737といったナローボディ機(客室通路が1列の機体)で、貨物室が小さく、貨物輸送には適さない。A320には小さなコンテナ搭載も可能だが、737はバラ積みだけなので、貨物といえるような大きなものは積むことはできない。

かつての機体は有事も予測していた?

「旅客機は貨物も多く運べなければ経済性で優位に立てない」という考え方は、1970年代からあった。アメリカ製が独占していた旅客機市場にヨーロッパ製のエアバスが参入する際には、エアバスの機体は意図的に客室床面を機体中央よりやや上にずらし、貨物スペースを大きく確保した。客室スペースを少し犠牲にして貨物スペースを捻出したのである。

C型の機体。前方5つ目と6つ目の窓の間が貨物ドア(1983年筆者撮影)

いっぽう、昔のボーイングには、今日のような事態を予測していたかのような機体もあった。747ジャンボ機にC型という機体があった。Convertible(コンバーチブル)の頭文字で、旅客型にも貨物型にも転用できる機体だった。窓があり旅客型であるが、貨物機として活用する場合、機首部分がぱっくり開き、長大貨物の搬出入が可能なほか、側面に貨物ドアも持っていた。アメリカのチャーター会社やイラク、イスラエルなどの航空会社が購入した。アメリカのチャーター会社は米軍輸送にあたることが多く、兵員を輸送することもあるが、物資輸送にも使われたのである。

新型コロナウイルス感染症の拡大が収束しても、しばらくの間は旅客の低迷が続くだろう。貨物の輸送も考慮しながらどうやって経営の舵取りを行うか、各社の経営陣にとって頭の痛い日々が続きそうだ。

谷川 一巳 交通ライター

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たにがわ ひとみ / Hitomi Tanigawa

1958年横浜市生まれ。日本大学卒業。旅行会社勤務を経てフリーライターに。雑誌、書籍で世界の公共交通機関や旅行に関して執筆する。国鉄時代に日本の私鉄を含む鉄道すべてに乗車。また、利用した海外の鉄道は40カ国以上の路線に及ぶ。おもな著書に『割引切符でめぐるローカル線の旅』『鉄道で楽しむアジアの旅』『ニッポン 鉄道の旅68選』(以上、平凡社新書)などがある。

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